今年はエネルギーセクターのパフォーマンスが壊滅的です。

BP、ロイヤルダッチシェルは減配。エクソンモービル、シェブロンは今のところ減配していませんが、株価は大幅に下落しています。

コロナウィルスの感染拡大により原油需要が激減、そしてテスラや中国の電気自動車メーカーが台頭し、代替エネルギーへの移行が叫ばれる中、かつて世界一だったエクソン・モービルの時価総額はネクステラ・エナジー(世界最大の風力・電力事業者)に抜かれてしまいました。ESG投資という昨今の資産運用のトレンドも石油株には逆風となっています。
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ですが、わざわざこのタイミングでエネルギーセクターの株を売る必要はないと思っています。
石油業界を取り巻く状況は厳しいですが、上記(太字)の文言に何か引っかかる点はないでしょうか。

「コロナで原油価格も下がっているし、これからは再生エネルギーが普及するだろうし、石油株は売ったほうが良いのではないか。」

我々は無意識にこのように考えがちですが、改めて冷静に見ると、この考えは短期的な要因と長期的な要因をごちゃ混ぜにしています。

10年、20年、あるいはそれ以上に渡る長期投資を行うにあたっては、短期的な要因に過度に振り回されないことが大事です。……が、人間には物事を悲観的に考える傾向があるようです。
人はポジティブな情報よりネガティブな情報に注目し、優先的に信じたり、強く記憶に残したりする傾向がある。これらの傾向をネガティブ・バイアスと呼ぶ。ネガティブ・バイアスは、生物が進化の過程で身に着けたと言われている。(出典:UX TIMES
原始時代という、人間が大型肉食動物の脅威にさらされていた時代に生き残った人々は、リスクに敏感だった人たちでした。そうでない者は命を落とし、遺伝子を次世代に繋ぐことができなかったからです。その結果、生き残った人々の子孫である我々の心理には「ネガティブ・バイアス」が埋め込まれています。

しかし、このような心理が原始時代の生存に有利であったとしても、科学技術が高度に発展し、合理的な行動が利益を左右する現代社会での経済的成功に有利に働くとは限りません。こと数十万、数百万という大金を投じる株式投資おいては、理論より感情が勝ってしまう場合が少なくありません。

そうした心理があるからこそ、売りたい衝動に駆られた際は、一度立ち止まって検討する時間を持ちたいものです。

話を戻します。コロナウィルスによって世界の交通がマヒし、それに伴い原油需要は大きく落ち込みました。しかし、足元では日本への入国制限が緩和されるなど、わずかながら変化が起きています。世界中の多くの人々がビジネスや観光目的での渡航再開を待っています。コロナショックによる需要低下は間違いなく回復します。

一方で、オンライン会議や在宅勤務の普及は、今後の人々の働き方を恒久的に変える可能性があります。パンデミックによって、働き方が強制的に切り替わった面はあると思います。しかしながら、最初は止む無く行っていたものの、やがてこうした働き方のメリットに気づくようになったという人も多いのではないでしょうか。

そうした状況を踏まえ、現在の原油需要低下の要因を分類すると、以下の3つに分かれます。
1. パンデミックによる一時的な需要低下
2. パンデミックを発端とした生活様式の変化に伴う恒久的な需要低下
3. 代替エネルギーへの転換にともなう継続的な需要低下

つまり、現状の原油需要低下には3つの側面があるということです。そして、需要に最も大きな影響を与えているのが一時的な要因である1番であることはほぼ間違いないでしょう。この現状においてエネルギーセクターを売却するのは「底値で売る」ことになる可能性が高いと思います。

1番は一過性のものであり、やがて消滅します。そうすれば原油需要はある程度戻るはずです。それに伴い、エネルギーセクターの株価もある程度回復するでしょう。完全に元通りになるかはわかりません。なぜなら2番と3番の影響があるからです。ただ、これらの変化は少しずつ起きるものですから、2、3年で大きな影響を与えることはないと思います。

私自身は保有しているXOM, BPを売却する予定はありません。しかし、いずれにしても、まずはコロナウィルスが収束し、一時的な原油需要の押し下げ要因が解消されるのを待つのが先決です。そのあとで、将来のエネルギーセクターの見通しを検討し、長期的に投資に資するのか判断した上で、ホールドor売却を決めるのが良いと思います。