アッヴィ(ABBV)といえばヒュミラ、そしてその特許切れリスクが常に議題に上がります。
2019年時点で、アッヴィの売上高の58%をヒュミラが占めていました。

ヒュミラの特許の状況は次のようになっています。
・欧州:2018年に特許切れ
・米国:2023年に特許切れ

ヒュミラはバイオ薬です。バイオ薬の後続品はバイオシミラーと呼ばれます。バイオシミラーは作成が困難(従来の医薬品である低分子医薬品と比較して)であり、ヒュミラの地位は簡単には脅かされないという意見も聞かれますが、現実問題として、米国外におけるヒュミラの売上は、すでに減少し始めています。

この状況から考えると、米国での特許が切れる2023年以降にヒュミラの売上高が大きく減少する可能性を認識した方が良さそうです。となれば、今後のアッヴィへの投資にあたっては

①ヒュミラの売上高がどこまで落ちるのか
②他の医薬品がどこまで伸びるのか


を分析、検討することが必要になってきます。

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①どこまで売上高が落ちるのか
GlobalDataが2025年における医薬品売上ランキングの予測を出しています。これによると、ヒュミラの売上高は約100億ドル。2019年の売上高が268億ドルですから、マイナス168億ドルの大幅減です。

②他の医薬品がどこまで伸びるのか

その前に、アラガン買収の効果を見てみましょう。

アラガンの売上高は158億ドル(2018年)です。ヒュミラの売上高が2025までに168億ドル減るのに対して、アラガン買収により売上高が158億ドル増えるわけですから、ほぼトントンですね。

買収によって、アッヴィの発行済み株式数はどのくらい増えるのでしょうか。

被買収側であるアラガンの株主は$120.30のキャッシュ+アッヴィの株を0.8660株受け取りました。アラガンの発行済み株式数は2019年9月16日時点で328,096,999株です。ということは、アッヴィの発行済み株式数は次のようになったと思われます(※推測です)。

増加分:328,096,999 × 0.8660 = 284,132,001(284百万)
買収前のABBV株式数:1484百万
買収後のABBV株式数:1484百万+284百万=1768百万(19%増加

株式数が19%増加ということは、株主利益が19%希薄化したということになります。思ったより少ないですね。

アラガン買収は、良い買い物だったのではないでしょうか。ヒュミラの売上減少を補える程の買収を行っておきながら、株式利益は19%しか希薄化していません。もちろん負債も増えているでしょうが、優秀な経営陣がマネジメントしてくれると思います。2023年まではヒュミラの売上でキャッシュを稼ぐことができますし。

では、アッヴィの医薬品パイプラインを見てみましょう。
以下の医薬品が将来を有望視されています。
・Imbruvica*(抗がん薬):2018年の36億ドル→ピーク時に70億ドル
・Rinvoq(関節リウマチ薬):2025年に65億ドル
・Skyrizi(乾癬治療薬):2023年に17億ドル

*JNJとの共同開発

*2020/10/18追記
アッヴィのSEOであるRick Gonzalez氏が、SkyriziとRinvoqの2つで売上200億ドルを達成することは可能だとコメントしていました。この宣言が実現すれば、ヒュミラの抜けた穴はカバーできます。そこにアラガン買収が加わるので、(仮にすべてが思惑通りになった場合)アッヴィの業績は大きく伸びることになりそうです。

考察
アラガン買収の効果と、(ヒュミラには及ばないものの)いくつかの医薬品が期待通り成長することにより、ヒュミラの特許切れによる売り上げ減少をカバーできそうな感じはします。上記の分析を通して思いましたが、短期的にカギを握るのは後継の医薬品の成長よりもアラガン買収の効果がどれだけ出るかであるような気がしています。これは来年、再来年の決算で明らかになってくるのではないでしょうか。