本ブログでは米国市場に上場する優良企業の分析を行っています。今回はアボット・ラボラトリーズ(NYSE: ABT)を分析します。
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基本情報

米国を代表する医療機器企業です。米国株投資家の間では、ジェレミー・シーゲル著『株式投資の未来』においてフィリップ・モリス(現アルトリア・グループ:MO)に次ぐ第二位のリターンを残した銘柄として知られていますね。

事業領域は4つあり、
1. Established Pharmaceutical Products: ジェネリック医薬品
2. Nutritional Products: 栄養剤製品
3. Diagnostic Products: 病院や血液バンク向けの診断システム
4. Cardiovascular and Neuromodulation Products: 心血管系疾患・ニューロモデュレーション向け医療機器
となっています。

アボット・ラボラトリーズの歴史(出典:ABBOTT PAKISTAN 2014 ANNUAL REPORT)

1888年にDr. Wallace C. Abbottによって創業。曰く「患者のためのより良い薬剤が欲しかった」ため、自身が所有するドラッグストアの上階のアパートで、患者への投薬をより正確かつ効果的に行うための小さな錠剤を自ら作り始める。

1900年に公式に会社化し、社名をAbbott Alkaloidal Companyとする。

1910年には製品数が700以上に。ニューヨークなどに事業を拡大。ヨーロッパ、インドにも進出。

1915年、社名を現在のAbbott Laboratoriesに変更。

1929年、シカゴ証券取引所に上場。

1964年、粉ミルクを製造するM&R Dietetic Laboratoriesを買収。

2013年、新薬の開発事業をアッヴィとして分離。

現在は世界の160を超える国で事業を展開しています。

業績

売上/利益

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2013年に売上高が急減しているのは、アッヴィの分社化によるものです。2016年にセント・ジュード・ メディカルを買収。その翌年の2017年から売上高が伸びています。アッヴィの分社化後の利益率は10~15%です。

EPS

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アボット社による最新のガイダンスによると、2020年のEPSは最低3.55ドルとのことで、ここ数年上昇傾向にあります。配当性向は50%を超えるくらいで推移。

株価とPER

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PERは2016年以降、40倍を超えており、非常に高くなっています。2020年の予想EPS(調整後)である3.35ドルと、現在の株価110ドルを使っても、予想PERは32.8倍であり、やはり割高です。

配当

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1924年から397四半期連続で配当を払い続けており、48年連続で増配しています。配当王(50年連続増配銘柄)まであと一歩!

自社株買い

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米国の優良企業の中では珍しく、自社株買いを行っていません。これは意外でした。

考察

私はこの企業の株を購入したいと以前から思っていましたが、高いPERのため手が出せませんでした。そうしているうちに株価はどんどん上昇を続け、ついに100ドルも突破してしまいました。常に高いPER、それでも上昇を続ける株価。一体どうなっているのか?……というのが、今回銘柄分析をした理由です。

では、銘柄分析をしてみて何か分かったかというと、あくまで一個人の評価ですが、正直に言うと買われすぎなのではないかと感じました。理由を以下に述べます。

理由1:利益率が高くない

誤解のないように言っておくと、アボット・ラボラトリーズの10~15%という利益率は企業として悪い数字ではありません(私もそんな会社で働きたい)。しかし、それを余裕で上回る利益率を毎年安定して出している企業が米国にはいくつも存在するのも事実で、どうしても比べてしまいます。働くならともかく投資先はこちらが自由に選べますからね。

同業他社の利益率はどうなっているのでしょうか。モーニングスターで5年間の営業利益率を見てみました。

・メドトロニック(MDT):20.71%
・サーモフィッシャー・サイエンティフィック(TMO):15.54
・ボストン・サイエンティフィック(BSX):15.31
アボット・ラボラトリーズ(ABT):12.09

セントジュード買収の影響もあるので一概には言えませんが、少なくとも同業他社より優れているということはなさそうです。

独占的な地位を占めている企業は利益率が高いです。例えばアルトリア:49%、フェイスブック:41%、ビザ:66%といった具合に(ビザの利益率は凄まじいです)。利益率が低いということは、厳しい競争に巻き込まれている可能性があります。これが次の理由2の遠因になっている可能性があります。

理由2:セント・ジュード・メディカル買収というテコ入れが必要だった

アッヴィ分社化後の2013年から2016年まで、売上高が変わっていません。つまり、アボット・ラボラトリーズの既存のビジネスは伸び悩んでいたということです。医療機器というのは金融やエネルギーのような循環セクターもないですし、マクドナルドやコカ・コーラのようにフランチャイズ化を進めることで売上高を犠牲にしつつも利益率を上げているわけでもありません。

理由3:コロナ禍による一時的な売上ブーストがかかっている

2020年7-9月期決算では、コロナウィルス検査キットの売上が9.8億ドルで、全売上高の10%近くを占めました。コロナ禍が収束すればこの10%を占める売上が消滅します。20年、30年という投資期間において、コロナ禍は一時的な変動に過ぎません。

実際、ファイザーがワクチン開発の発表を出した当日、多くの銘柄が大幅に上昇するなか、アボット・ラボラトリーズの株価は下落しました。


以上の要因などを踏まえると、30倍を超えるバリュエーションは割高なのではないかと考えています。

『株式投資の未来』によると、アボット・ラボラトリーズの1957~2003年の平均PERは21.4倍。確かにゼロ金利政策が実施されている現状では高PERは正当化されやすいですが、この超低金利が長年にわたって続く保証はありません。後で振り返ってみると、「当時のABTのバリュエーションは高すぎた」と言われる日が来る可能性はあります。

買い値が重要なのは、例えばコカ・コーラの株価を見れば良く分かります。98年に40ドルで同社の株を買った投資家は、20年以上たった今でも微々たるリターンしか手にしていません。
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シーゲル教授の調査で裏付けられた卓越したリターン、48年連続増配の実績は紛れもなく優良企業の証です。購入のタイミングさえ間違えなければ、素晴らしい投資になるに違いありません。

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2010年代にシーゲル銘柄の多くが低迷する中、アボット・ラボラトリーズはS&P500を上回るリターンを残しました。


兄弟銘柄とも言えるアッヴィ(ABBV)についても分析していますので、ぜひご覧ください。