個人投資家の多くは、普段はPERを用いて割高/割安を判断していると思いますが、今日は別の視点から考えるということで、ファイナンスの世界における主流である、割引キャッシュフロー法(DCF法)を使って企業価値を推定してみたいと思います。

今回DCF法を使うにあたっていくつかサイトを参考にしました。とくに役立ったサイトを紹介しておきます。






対象銘柄
米国大手企業の中から、自分自身にとってなじみ深く、かつ業績が毎年安定している銘柄を11種選びました。DCF法では、成長率を設定する必要があります。そのため、(たとえその認識が間違っているにしても)事業の見通しを予想することができる対象を選ばなけれ検証自体ができません。

・アルトリア(MO)
・フィリップモリス・インターナショナル(PM)
・コカ・コーラ(KO)
・プロクター・ギャンブル(PG)
・ペプシコ(PEP)
・AT&T(T)
・クラフト・ハインツ(KHC)
・ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)
・マイクロソフト(MSFT)
・ホームデポ(HD)
・スリーエム(MMM)

計算条件
成長率は過去の実績を参考に設定しますが、保守的な値にしています。たばこ銘柄は値上げが喫煙率減少と相殺するとしてインフレ率程度。飲料メーカーはインフレ率+GDP成長率=4%程度。PGとJNJはちょっと高めに5%。好調なMSFTは10%に。こんな感じです。

キャッシュフローは過去5年間の平均値を使います。

計算結果を左右する割引率ですが、一般には5%~10%にすることが多いようです。また、バフェットは10%にしていると聞いたことがあります。バフェットの真似をしても良かったのですが、あえて7%にしてみました。今の100万円は1年後のいくらに相当するかを考えると、110万円に相当する(割引率約10%)というのは少し厳しすぎるのではないかと思った次第です(これについての考察は後でします)。

計算は10年+ターミナルバリューとしました。これも一般には5年~10年にするようですが、長期投資なら10年ぐらい先まで見ても良いかと。

ターミナルバリューの計算における成長率は米国のインフレ目標に等しい2%にしました。

簡略化のため、負債は考慮しないことにします。

結果

※単位は百万ドルです
DCF法による計算

意外におもしろい結果が出ました。結果を見ると、AT&Tは過小評価されているということです。なんと、理論株価は現在の2倍以上になります。AT&Tは過去3年間のFCFが例年より高水準だったので、過去5年間のFCFを使った今回の計算ではこのような結果になったのだと思ますが、それにしてもダントツの割安銘柄です。

この計算結果では、MO、T、JNJ、MMMは割安、PM、KO、PEP、MSFT、HDは割高、PGとKHCはフェアバリューということになります。

割引率の設定について

割引率の設定は推定結果を大きくを左右します。今回を例にとれば、エクセル上で割引率を5%~10%に変化させてみると割引率5%ではほぼ全ての企業で[推定価値]>[現在の時価総額]となるのに対し、割引率10%では逆にほぼ全ての企業で[推定価値]<[現在の時価総額]になりました。つまり、この割引率を恣意的に決めている限り、企業の本質的価値を高精度に求めることは不可能です。ただ、各企業のバリュエーションを比較する上では今回のような恣意的な値でもそれなりに有効なのではないかと実際にやってみて感じました。割引率を5%~10%に変化させても、TやMOが相対的にPEPやKOより割安であるという結果は常に同じでした。よってフリーキャッシュフローの点からどの企業がより魅力的かという議論をする上では、今回のような簡単な検証でも知見が得られるのではないかと思います。

そしてやはり、投資を行う上で大切なことは、一つの方法にとらわれず多面的な評価を行うことだと思っています。PERや企業のブランド価値を評価することも、ROEを見ることも大切です。

おまけ:予想株価

上記の計算結果から導かれる予想株価です。一応載せておきます。

・アルトリア(MO):$70
・フィリップモリス・インターナショナル(PM):$66
・コカ・コーラ(KO):$40
・プロクター・ギャンブル(PG):$128
・ペプシコ(PEP):$89
・AT&T(T):$64.8
・クラフト・ハインツ(KHC):$38
・ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ):$198
・マイクロソフト(MSFT):$176
・ホームデポ(HD):$252
・スリーエム(MMM):$229

金利が上昇して市場全体のPERが下がった場合は、この予想値に近くなる銘柄が多くなりそうな感じはします。ただアルトリアとAT&Tが異常な値ですね。この2社が予想通りになる可能性は低いと思います。