7%という数値は米国株に投資する人にとってはある種の特別な意味を帯びた数字です。というのも、この数字は米国株の平均リターンを示したものだからです。
ジェレミー・シーゲル教授は、米国株200年の歴史において、期間を十分にとればどの期間も実質リターンが6.5%~7%に収まることを発見しました。この経験則は「シーゲルの一貫性(Siegel's constant)」と呼ばれています。
米国株がどの時代にも利益をもたらしてきたことを示した教授の発見は偉大なものです。多くの投資家がシーゲルの一貫性というバックアップを得て、自信をもって長期投資を実践できるようになりました。
しかし、このシーゲルの一貫性が拡大解釈されているような印象を最近受けます。例えば、次のような意見を良く聞きます。
「米国株に投資すれば平均7%のインフレ調整リターンが得られ、資産が10年毎に倍になる」
シーゲルの一貫性に基づく想定ですが、では今S&P500に投資して30年保有したら、本当に30年後に資産が8倍(2の3乗)になっているのでしょうか。
シーゲルの一貫性は超長期の法則
シーゲル教授自身が示した期間とリターンは次の通り(2007年英語版)。
・1802-1870年:7.0%
・1871-1925年:6.6%
・1926年以降:7.2%
期間はそれぞれ69年間、55年間、82年間です。つまり非常に長いのです。
個人の投資期間はそこまで長くありません。30歳で投資を始めて60歳までに資産を作ることを考えると30年です。これでも長い方でしょう。もちろん30年という長期間にわたって株式を保有し続ければプラスのリターンを上げる確率は高いはずです。しかし、実質リターンが6.5-7%の範囲に収まるとは限りません。この範囲をアウト/アンダーパフォームする可能性が十分あります。なぜなら、シーゲルの一貫性は「超長期」の経験則だからです(そしてもちろん、過去の結果は未来を約束するものではありません)。
実際、30年スパンではほとんどリターンがなかった時代があります。↓はS&P500の長期チャートです。
1960年代前半から90年代前半の30年間、S&P500はほとんど上昇していません。この時代は今より配当利回りが良かったですが、インフレ率も高かったので、この30年間の実質リターンはかなり酷いものだったでしょう。現在の高バリュエーションを考えると、2020年代、30年代がこのような時代になる可能性は否定できません。
米国以外で法則が成立していない
「株式投資の未来」には国別の1900年~2003年の実質リターンが掲載されています。いくつか抜粋します。
・ベルギー:2%未満
・日本:4%
・スウェーデン:7%超
もしシーゲルの一貫性が全ての国で成立するのであれば、この法則は何か人間の本質的な部分に依拠していそうだという話になります。例えばリスク資産に対するプレミアムや、人類の経済活動の生産性などです。しかし、そうなってはいません。
結論
今後20年、30年のインデックスのリターンが7%になる保証はありません。期待値としてはそれぐらいになるとしても、ばらつきはそれなりに大きく、個人的には3%~10%ぐらいの幅を想定しておいた方が良いのではないかと思っています。そして上述のように、最悪の場合はインデックスからはリターンがほとんど得られないことも考えられます。だからこそ、レイ・ダリオのオールウェザー戦略のような投資戦略が考案されてきたわけです。
50年以上保有するならまだしも、30年程度の期間だと、買い値は非常に重要だと言えます。現在S&P500のバリュエーションは歴史的な高水準にあります。投資期間が「それなりに長期」である我々個人投資家はよく考えて行動していく必要があります。
補足:1970年以降の実質リターン
計算してみました。配当込みリターンはウィキペディアから、インフレ率はMacrotrendsからデータ取得し、その差を求めました。さらに30年間の平均年率リターンも出しました。
近年の30年平均リターンは9%台と高いです。この事実は、シーゲルの一貫性という法則が今後も有効であると仮定した場合、今後数十年のリターンが低迷することを示唆しています(そうしなければ超長期の平均リターンが7%に落ち着きません)。
【参考】
こちらでより詳細な議論がされています。英語ですが、興味がある方はどうぞ。
ジェレミー・シーゲル教授は、米国株200年の歴史において、期間を十分にとればどの期間も実質リターンが6.5%~7%に収まることを発見しました。この経験則は「シーゲルの一貫性(Siegel's constant)」と呼ばれています。
Stocks for the Long Run より
米国株がどの時代にも利益をもたらしてきたことを示した教授の発見は偉大なものです。多くの投資家がシーゲルの一貫性というバックアップを得て、自信をもって長期投資を実践できるようになりました。
しかし、このシーゲルの一貫性が拡大解釈されているような印象を最近受けます。例えば、次のような意見を良く聞きます。
「米国株に投資すれば平均7%のインフレ調整リターンが得られ、資産が10年毎に倍になる」
シーゲルの一貫性に基づく想定ですが、では今S&P500に投資して30年保有したら、本当に30年後に資産が8倍(2の3乗)になっているのでしょうか。
シーゲルの一貫性は超長期の法則
シーゲル教授自身が示した期間とリターンは次の通り(2007年英語版)。
・1802-1870年:7.0%
・1871-1925年:6.6%
・1926年以降:7.2%
期間はそれぞれ69年間、55年間、82年間です。つまり非常に長いのです。
個人の投資期間はそこまで長くありません。30歳で投資を始めて60歳までに資産を作ることを考えると30年です。これでも長い方でしょう。もちろん30年という長期間にわたって株式を保有し続ければプラスのリターンを上げる確率は高いはずです。しかし、実質リターンが6.5-7%の範囲に収まるとは限りません。この範囲をアウト/アンダーパフォームする可能性が十分あります。なぜなら、シーゲルの一貫性は「超長期」の経験則だからです(そしてもちろん、過去の結果は未来を約束するものではありません)。
実際、30年スパンではほとんどリターンがなかった時代があります。↓はS&P500の長期チャートです。
Chart by: Macrotrends
1960年代前半から90年代前半の30年間、S&P500はほとんど上昇していません。この時代は今より配当利回りが良かったですが、インフレ率も高かったので、この30年間の実質リターンはかなり酷いものだったでしょう。現在の高バリュエーションを考えると、2020年代、30年代がこのような時代になる可能性は否定できません。
米国以外で法則が成立していない
「株式投資の未来」には国別の1900年~2003年の実質リターンが掲載されています。いくつか抜粋します。
・ベルギー:2%未満
・日本:4%
・スウェーデン:7%超
もしシーゲルの一貫性が全ての国で成立するのであれば、この法則は何か人間の本質的な部分に依拠していそうだという話になります。例えばリスク資産に対するプレミアムや、人類の経済活動の生産性などです。しかし、そうなってはいません。
結論
今後20年、30年のインデックスのリターンが7%になる保証はありません。期待値としてはそれぐらいになるとしても、ばらつきはそれなりに大きく、個人的には3%~10%ぐらいの幅を想定しておいた方が良いのではないかと思っています。そして上述のように、最悪の場合はインデックスからはリターンがほとんど得られないことも考えられます。だからこそ、レイ・ダリオのオールウェザー戦略のような投資戦略が考案されてきたわけです。
50年以上保有するならまだしも、30年程度の期間だと、買い値は非常に重要だと言えます。現在S&P500のバリュエーションは歴史的な高水準にあります。投資期間が「それなりに長期」である我々個人投資家はよく考えて行動していく必要があります。
補足:1970年以降の実質リターン
計算してみました。配当込みリターンはウィキペディアから、インフレ率はMacrotrendsからデータ取得し、その差を求めました。さらに30年間の平均年率リターンも出しました。
年 | S&P500配当込みリターン | インフレ率 | 実質リターン | |
単年 | 30年平均 | |||
1970 | 4.01% | 5.84% | -1.83% | |
1971 | 14.31% | 4.29% | 10.02% | |
1972 | 18.98% | 3.27% | 15.71% | |
1973 | -14.66% | 6.18% | -20.84% | |
1974 | -26.47% | 11.05% | -37.52% | |
1975 | 37.20% | 9.14% | 28.06% | |
1976 | 23.84% | 5.74% | 18.10% | |
1977 | -7.18% | 6.50% | -13.68% | |
1978 | 6.56% | 7.63% | -1.07% | |
1979 | 18.44% | 11.25% | 7.19% | |
1980 | 32.50% | 13.55% | 18.95% | |
1981 | -4.92% | 10.33% | -15.25% | |
1982 | 21.55% | 6.13% | 15.42% | |
1983 | 22.56% | 3.21% | 19.35% | |
1984 | 6.27% | 4.30% | 1.97% | |
1985 | 31.73% | 3.55% | 28.18% | |
1986 | 18.67% | 1.90% | 16.77% | |
1987 | 5.25% | 3.66% | 1.59% | |
1988 | 16.61% | 4.08% | 12.53% | |
1989 | 31.69% | 4.83% | 26.86% | |
1990 | -3.10% | 5.40% | -8.50% | |
1991 | 30.47% | 4.24% | 26.23% | |
1992 | 7.62% | 3.03% | 4.59% | |
1993 | 10.08% | 2.95% | 7.13% | |
1994 | 1.32% | 2.61% | -1.29% | |
1995 | 37.58% | 2.81% | 34.77% | |
1996 | 22.96% | 2.93% | 20.03% | |
1997 | 33.36% | 2.34% | 31.02% | |
1998 | 28.58% | 1.55% | 27.03% | |
1999 | 21.04% | 2.19% | 18.85% | 9.68% |
2000 | -9.10% | 3.38% | -12.48% | 9.32% |
2001 | -11.89% | 2.83% | -14.72% | 8.50% |
2002 | -22.10% | 1.59% | -23.69% | 7.19% |
2003 | 28.68% | 2.27% | 26.41% | 8.76% |
2004 | 10.88% | 2.68% | 8.20% | 10.29% |
2005 | 4.91% | 3.39% | 1.52% | 9.40% |
2006 | 15.79% | 3.23% | 12.56% | 9.22% |
2007 | 5.49% | 2.85% | 2.64% | 9.76% |
2008 | -37.00% | 3.84% | -40.84% | 8.43% |
2009 | 26.46% | -0.36% | 26.82% | 9.09% |
2010 | 15.06% | 1.64% | 13.42% | 8.90% |
2011 | 2.11% | 3.16% | -1.05% | 9.38% |
2012 | 16.00% | 2.07% | 13.93% | 9.33% |
2013 | 32.39% | 1.46% | 30.93% | 9.71% |
2014 | 13.69% | 1.62% | 12.07% | 10.05% |
2015 | 1.38% | 0.12% | 1.26% | 9.15% |
2016 | 11.96% | 1.26% | 10.70% | 8.95% |
2017 | 21.83% | 2.13% | 19.70% | 9.55% |
2018 | -4.38% | 2.44% | -6.82% | 8.91% |
2019 | 31.49% | 1.81% | 29.68% | 9.00% |
2020 | 18.40% | 1.52% | 16.88% | 9.85% |
↑2020年はIMF推計 |
近年の30年平均リターンは9%台と高いです。この事実は、シーゲルの一貫性という法則が今後も有効であると仮定した場合、今後数十年のリターンが低迷することを示唆しています(そうしなければ超長期の平均リターンが7%に落ち着きません)。
【参考】
こちらでより詳細な議論がされています。英語ですが、興味がある方はどうぞ。
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