本ブログでは米国市場に上場する優良企業の分析を行っています。今回はホームデポ(NYSE: HD)を分析します。
二人は解雇を機に「これまでになかった形態のホームセンターを作ろう」とホームデポを立ち上げます。その特徴は、従来よりも大規模な店舗を構え、製造業者から直接買い付けることで顧客に安価に商品を提供できることでした。
やがてその安さが口コミで広がり、ホームデポは成長軌道に乗ります。
前述のように、独裁的な経営者に解雇された過去があるMarcusとBlankは、従業員が率直に意見交換できる環境を大切にしました。またこの二人はカスタマーサービスにも力をいれていたとのこと。その甲斐あってか、現在のホームデポは高い専門知識を持つ従業員で知られており、それが同社の競争力の一つになっています。
・1981年にIPO
・1989年に100店舗達成
・1994年にカナダ企業Aikenhead’s Home Improvement Warehouseの株式の75%を取得し国外進出
・2000年にオンライン販売を開始
・2015年にInterline Brandsを買収
・2017年にCompact Power EquipmentとThe Company Storeのeコマース部門を買収
2000年にGEからRobert NardelliをCEOに迎え入れ従業員削減などのコストカットを行うも、これが裏目に出て顧客からの評判が落ち始めます。コストカットにより利益は出たものの、店舗当たりの売上は伸び悩み、株価の伸びもライバルであるロウズの後塵を拝すことになりました。また、Nardelliの在任期間であった2000年から2007年の間に店舗数は大幅に増え、1,211店舗が新たに開店しました。
ホームデポは2007年にNardelliを解任し、新CEOとしてFrank Blakeが就任します。BlakeはNardelliと真逆の経営方針に舵を切り、従業員の手当増額、新店舗の出店中止、カスタマーサービスの充実などに取り組みました。その結果業績が回復し、後述する2010年代の素晴らしいパフォーマンスにつながって行きます。
(以上の参考:①Here's what Home Depot looked like when it first opened in 1979 ②A 360-Degree View of The Home Depot)
競合にロウズ(LOW)があります。かつてはロウズが全米No.1のホームセンターだったのですが、ホームデポが創業して10年後にロウズを抜いて全米No.1になりました。
最近はオンラインショッピングに力を入れています。ネットで注文し店舗で受け取りができ、また返品も実店舗でできるようです。ホームデポが取り扱う商品は大きく重いため、配達に不向きなものが多く、このおかげでアマゾンとの棲み分けができています。
その後は一貫して上昇基調。営業利益率も上がっていて申し分ない業績です。
なお店舗数は下図のように2000年代後半に頭打ちになっており、2010年代もほとんど変化がありません。ホームデポは2010年代を通して、店舗当たりの売上高増加および利益率の改善に注力してきました。
しかし、アメリカのホームセンターはなぜこんなに儲かるんでしょうか。競合のロウズもホームデポほどではありませんが、市場平均を大きく上回るリターンを残しています。
高いEPS成長率はどのように実現されたか
トップライン(売上高)の伸びはリーマンショックの影響を除けば10年で2割増といったところです。この部分が突出しているわけではありません。それに対してEPSはこの10年で何倍にもなっています。ではその要因は何か。上記のデータからは、①利益率の改善、②大量の自社株買い の2点が見て取れます。
実際に計算して確かめてみましょう。リーマンショックの影響を減らすために、2007年から2017までの10年間で考えます。業績は次のように変わりました。
・売上高が1.2倍に
・営業利益率が11%→14%に(1.27倍)
・発行済み株式数が40%減少(0.6倍)
以上を乗算すると、次のようになります。
・1.2×1.27÷0.6=2.54
これが10年間にEPSが何倍になったかを概算した額になります。実際のEPSで確かめてみると2007年のEPSは$2.79で、2017年のEPSが$6.45ですから、
・6.45/2.79=2.31
となり、かなり近い値になります。
つまり、ホームデポの2010年代の素晴らしい業績は、営業利益率の改善と自社株買いでほぼ説明できることになります(株価については、これにバリュエーションの上昇も加算されます)。
利益率の改善要因は?
そうすると次に疑問なのが、なぜ営業利益率が改善してきたかです。モトリー・フールの記事では革新的な商品の開発によって高収益を実現してきた説明しています。また、ITによるサプライチェーン改革にも取り組んできたとのこと。その結果、在庫日数がロウズより短くなっています(HD: 77日、LOW: 97日)
この成長は続くのか?
最後にホームデポの今後を考えてみたいと思います。まず売上高についてですが、店舗数がこの10数年変わっていないところを見ると、市場が成熟し切っている可能性があります。もしそうなら、今後も売上高の大幅な上昇は見込めないだろうと思われます。
ただ、オンライン事業が成長している点を忘れてはいけません。オンライン事業の売上高は毎年20%以上伸びています。問題はこの売上高の源泉がどこかという点です。実店舗の売上がオンラインに転換されているだけなら、売上高の総計は変化しません。しかし、以前はホームデポ以外で買い物をしていた顧客がホームデポのECサイトに流れて来ている(つまりマーケットシェアの拡大)としたら、2020年代に売上高の伸びが加速する可能性があります。
ここまで読んで頂いたのに恐縮ですが、実はこの点について、ホームデポのマーケットシェアの推移を明確に示すデータを見つけることができませんでした。一応、分野が限定的ですが建材・ガーデンサプライ市場のマーケットシェアの推移が見つかったのでご紹介します。
シェアがほぼ一定(or微増?)であることが分かります。仮にこのシェアの推移がホームデポ全体の業績にも当てはまるとすると、シェア拡大による成長はほぼ見込めないということになります。上記参照記事でも「この分野は成熟しており、成長率はほぼGDP成長率に基本的に一致する」という趣旨のことが述べられています。ちなみに、参照記事における今後5年間のホームデポの売上高成長率は4 ± 2%と予想されています。
利益率の改善はどうでしょうか。14%という営業利益率は小売業界ではかなり高い数値です。上昇余地は限られていると個人的には思います。ここでは保守的に変化なしと見積もります。
自社株買いは継続可能だろうと見ています。近年の平均である年4%の株式減少率を想定します。
もちろん、さらなるシェア拡大&利益率改善を何等かの方法で実現するとか、企業買収、新分野開拓など成長の余地は残されています。
基本情報
ホームデポ(HD)は1979年にアトランタに最初の店舗を出店しました。創業者はBernie MarcusとArthur Blank。この二人、元々Handy Danという別のホームセンターでそれぞれ社長、CFOを務めていたのですが、経営が順調だったにもかかわらず、同社の権利を保有していたSanford C. Sigoloffという企業再生で名を馳せた人物に解雇されてしまいます。二人は解雇を機に「これまでになかった形態のホームセンターを作ろう」とホームデポを立ち上げます。その特徴は、従来よりも大規模な店舗を構え、製造業者から直接買い付けることで顧客に安価に商品を提供できることでした。
やがてその安さが口コミで広がり、ホームデポは成長軌道に乗ります。
前述のように、独裁的な経営者に解雇された過去があるMarcusとBlankは、従業員が率直に意見交換できる環境を大切にしました。またこの二人はカスタマーサービスにも力をいれていたとのこと。その甲斐あってか、現在のホームデポは高い専門知識を持つ従業員で知られており、それが同社の競争力の一つになっています。
・1981年にIPO
・1989年に100店舗達成
・1994年にカナダ企業Aikenhead’s Home Improvement Warehouseの株式の75%を取得し国外進出
・2000年にオンライン販売を開始
・2015年にInterline Brandsを買収
・2017年にCompact Power EquipmentとThe Company Storeのeコマース部門を買収
2000年にGEからRobert NardelliをCEOに迎え入れ従業員削減などのコストカットを行うも、これが裏目に出て顧客からの評判が落ち始めます。コストカットにより利益は出たものの、店舗当たりの売上は伸び悩み、株価の伸びもライバルであるロウズの後塵を拝すことになりました。また、Nardelliの在任期間であった2000年から2007年の間に店舗数は大幅に増え、1,211店舗が新たに開店しました。
ホームデポは2007年にNardelliを解任し、新CEOとしてFrank Blakeが就任します。BlakeはNardelliと真逆の経営方針に舵を切り、従業員の手当増額、新店舗の出店中止、カスタマーサービスの充実などに取り組みました。その結果業績が回復し、後述する2010年代の素晴らしいパフォーマンスにつながって行きます。
(以上の参考:①Here's what Home Depot looked like when it first opened in 1979 ②A 360-Degree View of The Home Depot)
競合にロウズ(LOW)があります。かつてはロウズが全米No.1のホームセンターだったのですが、ホームデポが創業して10年後にロウズを抜いて全米No.1になりました。
最近はオンラインショッピングに力を入れています。ネットで注文し店舗で受け取りができ、また返品も実店舗でできるようです。ホームデポが取り扱う商品は大きく重いため、配達に不向きなものが多く、このおかげでアマゾンとの棲み分けができています。
業績
売上/利益
リーマンショックで売上高が減少していますが、思ったほどではありませんでした。サブプライムローンに端を発する住宅バブルが弾けたことがリーマンショックの原因ですから、ホームセンターであるホームデポも甚大な被害を被ったのではないかと想像していましたが……。ただ営業利益率も同時に低下しているので、利益は売上高以上に減っており、リーマンショック前後で半減しています。
その後は一貫して上昇基調。営業利益率も上がっていて申し分ない業績です。
なお店舗数は下図のように2000年代後半に頭打ちになっており、2010年代もほとんど変化がありません。ホームデポは2010年代を通して、店舗当たりの売上高増加および利益率の改善に注力してきました。
EPS
2010年末の株価は$35、2020年末の株価は$266でした。10年で7.6倍。2010年代にホームデポに投資していた人は素晴らしいリターンを得ることができました。2021年1月時点の予想PERは21.69倍です。
配当
驚異的な増配率ですね。20%や30%の増配を連発しています。これだけ増配して配当性向が変わっていないのがすごい。そして、現在の配当利回りは何と2.25%。この利回りで毎年2桁増配してくれるなら、PERがどれだけ高くても買っても良いかも。いや、PERがそこそこだからこそ、この利回りになるのですが。2008年、2009年は配当据え置きだったので連続増配記録は一度途切れています。
自社株買い
考察
こんな素晴らしい企業があったとは! こういう企業に出会った時が、米国株に投資していて良かったと思える時です。しかし、アメリカのホームセンターはなぜこんなに儲かるんでしょうか。競合のロウズもホームデポほどではありませんが、市場平均を大きく上回るリターンを残しています。
高いEPS成長率はどのように実現されたか
トップライン(売上高)の伸びはリーマンショックの影響を除けば10年で2割増といったところです。この部分が突出しているわけではありません。それに対してEPSはこの10年で何倍にもなっています。ではその要因は何か。上記のデータからは、①利益率の改善、②大量の自社株買い の2点が見て取れます。
実際に計算して確かめてみましょう。リーマンショックの影響を減らすために、2007年から2017までの10年間で考えます。業績は次のように変わりました。
・売上高が1.2倍に
・営業利益率が11%→14%に(1.27倍)
・発行済み株式数が40%減少(0.6倍)
以上を乗算すると、次のようになります。
・1.2×1.27÷0.6=2.54
これが10年間にEPSが何倍になったかを概算した額になります。実際のEPSで確かめてみると2007年のEPSは$2.79で、2017年のEPSが$6.45ですから、
・6.45/2.79=2.31
となり、かなり近い値になります。
つまり、ホームデポの2010年代の素晴らしい業績は、営業利益率の改善と自社株買いでほぼ説明できることになります(株価については、これにバリュエーションの上昇も加算されます)。
利益率の改善要因は?
そうすると次に疑問なのが、なぜ営業利益率が改善してきたかです。モトリー・フールの記事では革新的な商品の開発によって高収益を実現してきた説明しています。また、ITによるサプライチェーン改革にも取り組んできたとのこと。その結果、在庫日数がロウズより短くなっています(HD: 77日、LOW: 97日)
この成長は続くのか?
最後にホームデポの今後を考えてみたいと思います。まず売上高についてですが、店舗数がこの10数年変わっていないところを見ると、市場が成熟し切っている可能性があります。もしそうなら、今後も売上高の大幅な上昇は見込めないだろうと思われます。
ただ、オンライン事業が成長している点を忘れてはいけません。オンライン事業の売上高は毎年20%以上伸びています。問題はこの売上高の源泉がどこかという点です。実店舗の売上がオンラインに転換されているだけなら、売上高の総計は変化しません。しかし、以前はホームデポ以外で買い物をしていた顧客がホームデポのECサイトに流れて来ている(つまりマーケットシェアの拡大)としたら、2020年代に売上高の伸びが加速する可能性があります。
ここまで読んで頂いたのに恐縮ですが、実はこの点について、ホームデポのマーケットシェアの推移を明確に示すデータを見つけることができませんでした。一応、分野が限定的ですが建材・ガーデンサプライ市場のマーケットシェアの推移が見つかったのでご紹介します。
シェアがほぼ一定(or微増?)であることが分かります。仮にこのシェアの推移がホームデポ全体の業績にも当てはまるとすると、シェア拡大による成長はほぼ見込めないということになります。上記参照記事でも「この分野は成熟しており、成長率はほぼGDP成長率に基本的に一致する」という趣旨のことが述べられています。ちなみに、参照記事における今後5年間のホームデポの売上高成長率は4 ± 2%と予想されています。
利益率の改善はどうでしょうか。14%という営業利益率は小売業界ではかなり高い数値です。上昇余地は限られていると個人的には思います。ここでは保守的に変化なしと見積もります。
自社株買いは継続可能だろうと見ています。近年の平均である年4%の株式減少率を想定します。
もちろん、さらなるシェア拡大&利益率改善を何等かの方法で実現するとか、企業買収、新分野開拓など成長の余地は残されています。
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