今回は、以下のグラフを紹介したいと思います。米国の1997年から2017年における物価変動を医療費、学費など項目別に表したグラフです。
CPIChart2018

真ん中の黒い線"Overall inflation"がこの期間のいわば「全体のインフレ率」で、その値は55.6%です。この数字だけ見ると20年間で物価が1.5倍になったということになりますが、実情はより複雑で、全体のインフレ率を圧倒するスピードで価格が上がって行ったものもあれば、価格が上がるどころか下がったものもあります。

<全体のインフレ率を圧倒的に上回った群>
Hospital Services:病院のサービス
College Textbookso:大学の教科書
College Tuitiono:大学の学費

<全体のインフレ率を上回った群>
Child Care:育児
Medical Care Services:医療サービス

<全体のインフレ率とおよそ同等の群>
Wages:賃金
Housing:住宅
Food and Beverage:食料、飲料

<物価が変わらなかった(変動=0%)群>
New Cars:新車
Household Furnishings:家具
Clothings:衣服

<物価が下がった群>
Cellphone Servie:携帯電話サービス
Software Service:ソフトウェアサービス
Toys:おもちゃ
TVs:テレビ


米国では学費が高騰し、多くの学生が奨学金という名の借金を背負った状態でキャリアをスタートすることがよく問題になっていますが、学費はこの20年間で200%も値上がりしており、この問題を裏付ける形となっています。

同様に、米国は医療費の高さで知られていますが、これもデータに表れています。多分20年前もすでに高かったとは思いますが、20年の間にさらに拍車がかかったのでしょう。

賃金はインフレを上回るスピードで伸びているので、米国人全体としては20年で豊かになったということになりますが、実態は個人の環境によって違うということですね。それを示しているのが上図です。

住宅と食料品、飲料品は全体のインフレと同等です。生活必需品はインフレに強いと言われますが、確かにこの20年間の実績データではインフレに負けていません(勝ってもいませんが)。

新車、家具、衣服は物価変動がほぼ0%です。賃金も他の物価も上がっているのに、これらの価格は据え置かれたということです。一見不可解な感じがしますが、私は次の仮説を考えています:まず、これらの商品はグローバル化の恩恵を受けます。例えば車なら、メキシコに工場を建てることで人件費を節約できます。これらの業界は競争が激しく、値上げをすれば顧客が離れて行ってしまうため、値上げを行うことはできませんでしたが、グローバル化によってコストダウンを実現できたため、企業価格を据え置きにしても利益を出すことができました。一方、値下げをするほどの圧力もありませんでした。おそらく、これらの業界は成熟しており、価格破壊的なイノベーションが発生しなかったからではないかと思います。それが次にあげるグループとの違いです。

最後は物価が下がった群です。ハイテク系が多いですが、グラフにもあるテレビをはじめ、ハードディスクやメモリなど、私たちの身の回りでも安く手に入るようになったことを実感できた商品は多いです。新技術はイノベーションが起きやすく、価格を下がる圧力が大きいのではないでかと個人的には考えています。