2021年現在、S&P500の時価総額上位10社は以下の通りです。

1: アップル
2: マイクロソフト
3: アマゾン
4: フェイスブック
5: アルファベット
6: ジョンソン&ジョンソン
7: JPモルガン・チェース
8: ウォルマート
9: エヌビディア
10: ビザ

10社中、IT関連企業が7社。2010年代はIT株にとって素晴らしい10年間でした。

では、2020年代はどうでしょうか。2030年になってもこれらの企業は繁栄しているでしょうか。

多くの人が、こうしたトップ企業が10年後も同じようにS&P500の上位を維持すると考えているのではないでしょうか。AAPLもMSFTもAMZNもGOOGもそれぞれの市場で圧倒的な存在感があり、また成長率も高いです。ウォルマートあたりは伸び悩むかもしれませんが、それでも大半の銘柄がS&P500を上回るリターンを残すと思っていませんか。

私を含む、投資歴10年が満たないような投資家は、現在の趨勢が今後も続くと思いがちですが、歴史を振り返るとそうではないようです。

ダイナミックな米国市場



上の動画は1980年以降におけるS&P500の上位10銘柄の推移をまとめたものです。アニメーションで確認できて、とても分かりやすいです(これもアルファベット(グーグル)が作ってくれたサービスですね。その動画を見ながらこうした素晴らしいサービスを作ってくれた企業について悲観的なコメントをするのは認知的不協和のせいか気持ちが不安定になります)。

この動画を見ると、米国経済がいかにダイナミックに変化して来たか分かります。1980年時点では10社中7社が石油関連企業でした。1990年代に入るとMOやKO、PGなど現在の米国株投資家にも人気の銘柄がランクインして来ます。2000年代はGEとXOMが独走していた時期もありました。アップルやグーグルはリーマンショック後に跳ねるような勢いでランキングを駆け上がって行きます。

半数は次の10年間でトップ10から脱落する

・1980年の時価総額トップ10のうち、1990年もトップ10に残った企業は4社(IBM, T, XOM, GE)
・1990年の時価総額トップ10のうち、2000年もトップ10に残った企業も4社(GE, XOM, MRK, WMT)
・2000年の時価総額トップ10のうち、2010年もトップ10に残った企業も4社(XOM, MSFT, GE, WMT)
・2010年の時価総額トップ10のうち、2020年もトップ10に残った企業は5社(AAPL, MSFT, BRK, GOOG, WMT)


と、10年間で半数以上の銘柄がトップ10から脱落しています。この過去に基づけば、2020年代も同様に5~6社が入れ替わるかもしれません。(余談:これは根拠がなく、ただの当てずっぽうですが、FB、BRK、JNJ、WMT、JPMの5社がそうかなと思います)

現在に至るまでのトータルリターンも低い

各年代の時価総額上位10社がその後どんなパフォーマンスだったかまとめてみます。1980/1990/2000/2010年~2020年までのトータルリターンを比較しました。

・1980年時点の上位10社のうち、S&P500をアウトパフォームした企業は0(※)

・1990年時点の上位10社のうち、S&P500をアウトパフォームした企業は3社(MO, WMT, KO)
IBM: 7.94%
XOM: 7.36%
GE: 5.19%
MO: 14.16%
RDS: データなし(多分アンダーパフォーム)
BMY: 8.89%
MRK: 9.63%
WMT: 12.62%
T: 4.30%
KO: 10.64%
S&P500: 10.10%

・2000年時点の上位10社のうち、S&P500をアウトパフォームした企業は1社(MSFT)
GE: -4.35%
XOM: 3.10%
PFE: 4.34%
C: -6.65%
CSCO: 0.49%
WMT: 5.46%
MSFT: 8.88%
AIG: -14.26%
MRK: 4.75%
INTC: 3.17%
S&P500: 6.50%

・2010年時点の上位10社のうち、S&P500をアウトパフォームした企業は3社(AAPL, MSFT, GOOG)
XOM: -0.92%
AAPL: 31.56%
MSFT: 22.56%
BRK.A: 12.08%
GE: 0.01%
WMT: 12.11%
GOOG: 17.09%
CVX: 4.84%
IBM: 2.83%
PG: 11.23%
S&P500: 13.83%


(※Portfolio Visualizerは1985年からのデータしかないので1980年以降のリターンは測定できませんでした。そのため、こちらの記事を参照しました。1980~2017年のリターンでS&P500をアウトパフォームしたのはXOMのみ。それも僅差です。これが配当込みかどうか分かりませんが、僅差であることと、リンク先の記事が書かれたのが2017年で、現在は原油価格が暴落していることを考慮すると、1980年時点の上位10社は全銘柄がS&P500をアンダーパフォームしたものと考えられます)


インデックスに対する勝率はわずか0%~30%。つまり、当時世間を席巻していたトップ企業に投資して、長期間信じて保有していた投資家は、S&P500に投資していた場合に比べて大して報われなかったということです。

2000年時点でトップだったGEに至ってはその後20年間のトータルリターンがマイナスです。
2010年代からの10年間のトータルリターンではAAPLが30%を超えるリターンをたたき出していますが、20年、30年と時間が長くなるにつれてこの数値は低下していくでしょう。


考察

以上の事実から言えることは、長期保有目的で時価総額が上位の企業(すなわちアップルやマイクロソフト)に投資することは良策ではないということです。

現在の時価総額上位10社を再掲します。
1: アップル
2: マイクロソフト
3: アマゾン
4: フェイスブック
5: アルファベット
6: ジョンソン&ジョンソン
7: JPモルガン・チェース
8: ウォルマート
9: エヌビディア
10: ビザ

どれも良い企業ですが、20年後、30年後を見たときに投資家に良い結果をもたらすかは別であるということです。アップルはスマホ市場が飽和しています。マイクロソフトはサブスクリプションやクラウドへの移行が完了した後も現在の高PERを維持できるか。アマゾンはジェフ・ベゾスが引退発表した現在が全盛期かもしれません。人々は10年後もフェイスブックを見て友人の投稿に一喜一憂しているでしょうか。

IT企業は特別でしょうか? インターネット上でビジネスを行う場合は土地も資本も不要で、こうした企業は衰退しないという論調があります。その可能性は否定できませんが、確実でもありません。1980年代の投資家は「石油は人類にとって必要不可欠なものだから、石油企業は人類が生きている限り繁栄し続ける」と言っていたかもしれません。

では、20年や30年といわずに、5年や10年保有して、事業に陰りが見えたら別の銘柄に乗り換える、という手はどうでしょうか。これも有効かもしれません。しかし、売却益には税金がかかることを忘れてはいけません。結局S&P500をひたすらホールドしていた方がリターンが上になる可能性があります。また、売却のタイミングを正確に判断することができるのは本当に優秀な投資家に限られます。