エクソンモービルが配当維持を発表しましたね。今回はついに減配かと思っていましたが、免れました。その株主第一の姿勢には畏怖すら感じます。

しかし、第3四半期(以下Q3)の決算は赤字。無理をしていることは間違いありません。赤字なのに配当を払い続けて、大丈夫なのでしょうか? そこで今回は、エクソンモービルのフリーキャッシュフローを見て、財政面の現状を確認したいと思います。
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Q3決算ハイライト

まずは10月30日に発表されたQ3決算の内容を簡単におさらいします(ソース:The Street)。
・売上高は29%減の462億ドルで、市場予想の437億ドルを上回った
・純利益は6億ドルの赤字
・調整後EPSは-0.18ドルで、市場予想の-0.25ドルよりは良かった
・エクソンは雇用と設備投資の削減を発表

米国でのケミカル事業が好調だったことが市場予想を上回った理由です。
ただ黒字はケミカル部門だけで、アップストリーム、ダウンストリーム共に赤字を計上しました。

キャッシュフロー

ではキャッシュの状況を見ていきましょう。以下はエクソン・モービルの発表資料を日本語訳したものです。
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事業および資産売却により、Q3に45億ドルのキャッシュを生み出しています(昨年は95億ドル)。意外にも負債が減っていますね。Q3は借金を増やさずに乗り切ったということです。しかし、現金がQ2の126億ドルから88億ドルへと、大幅に減っています。Q4も同じ状況、資金繰りが続くと仮定すると、現金は次の期末で50億ドル程度になり、そして2020年Q1でほぼ底をつきます。やはり、このままでは長くは持ちません。

負債の指標はどうか

キャッシュが底をつくなら、借金するしかないのですが、さらに借り入れできる状況なのでしょうか。
ということで、エクソンモービルの流動比率、当座比率を確認してみます。YUTAさんのブログを参考に、流動性比率1.0以上、当座比率0.8以上を健全とみなします。

【計算式】
・流動比率(Current Ratio)=流動資産÷流動負債(1.0以上なら健全)
・当座比率(Quick Ratio)=当座資産/流動負債(0.8以上なら健全)

2020年Q3のデータが現時点では見つからないため、Q2のデータを使って計算します。上記の発表資料を見る限り、負債は大きくは変わっていないようなので、全体像を理解するには問題ないと考えます。

2020年6月末時点で:
・流動資産:53,016百万ドル
・流動負債:57,270百万ドル
・当座資産:33,359百万ドル

→流動比率=53,016/57,270=0.93(基準値の1.0を下回っている)
→当座比率=33,359/57,270=0.58(基準値の0.8を下回っている)

※上記キャッシュフローの表で2Q2020の負債が695億ドルとなっていますが、これはバランスシート上の借入金230億ドルと長期負債466億ドルを足した額で、買掛金などが除外されています。

流動比率も当座比率も基準値(それぞれ1.0と0.8)を下回っており、予断を許さない状況です。

流動比率が1.0以下ということは、迫りくる借金返済に充てる資金が足りていないことを意味しています。つまり、借金で借金を返す自転車操業になる危険性があるということです。

ちなみに流動資産53,016百万ドルのうち、原油などの在庫が15,028百万ドルです。なので、原油需要が回復しなければ在庫は掃けません。原油価格の上下にも影響されます(上昇することで追い風にもなり得ますが……)。そこで在庫を除いた当座資産と負債の比率(=当座比率)を見ると、これが0.58という数値。言い換えると、在庫以外の手持ち資金をすべて借金返済に充てても、借金は半分ほどしか返せないということです。

それでも借金した場合

Q2→Q3のキャッシュ減少額=40億ドルを賄うために、4半期ごとに40億ドルを借金するとします(計算を簡単にするため、すべて流動負債に計上します)。流動比率と当座比率は、

2020Q3
・流動比率=0.86
・当座比率=0.54

2021Q4
・流動比率=0.81
・当座比率=0.51

と、徐々に減って行きます。
もってあと数四半期、でしょうか。しかしギリギリまで踏ん張れば良いというものでもなく、借金が増えれば増えるほど企業の財務は悪化し、将来の成長に対する重しになります。それでも配当を維持するところにエクソンモービルの覚悟を感じます。これこそが株主利益を第一に考える米国的経営ということでしょうか。

まとめ

この状況が続くと仮定した場合、現金は半年で底をつきます。借金すればもうしばらく配当を維持できるかもしれませんが、長期的な業績に悪影響を与える恐れがあります。もはや、というかやはり、ファイナンスでどうにかなる問題ではありません。原油価格の上昇なくしては状況の好転はありません。