『イノベーションのジレンマ』という本を読んだことがあるでしょうか。ハーバード大学のクレイトン・クリステンセンが書いた名著で、2000年頃に出版されましたが現在でも本屋で売られています。私は最近この本を読みました。

20年以上前に書かれた本書ですが、やはり本質を突いた内容というのは何年たっても色あせないものですね。特に、現在のインテルの凋落にはこのイノベーションのジレンマが良く当てはまります。

イノベーションのジレンマ要約

クリステンセンは「優秀な企業は優秀であるからこそ失敗する」と言っています。なぜこのようなことがなぜ起きるのでしょうか。それを解き明かすことが同書のメインテーマです。

私なりに内容を要約すると、次のようになります。

1. 低価格で低性能だが既存品とは異なる特徴を持つ製品が発明される、
2. その製品のための市場はまだ存在しないため、大企業は無視する
3. 新興企業と顧客がその製品の使い道を見出す
4. 市場を開拓する中で製品が高性能化していく
5. 製品が高性能化し、既存の市場も侵食していく

本書には様々な例が分かりやすく書かれていますが、中でもホンダのアメリカ市場進出の話は日本人にとって分かりやすい話です。
例えば「北米市場におけるホンダのオートバイ」は、この破壊的イノベーションの具体例である。1950年頃の北米では、ハーレー・ダビットソンやBMWなど、轟音を立ててハイウェイを爆走するようなイメージの大型バイクが主流であった。そのような環境の中、小型バイクで参入を試みたホンダは、既存の大型バイクメーカーからはほとんど脅威とみなされていなかった。しかしながら、徐々に「小型で安価であるにもかかわらず、故障しにくく、燃費もよく、取り扱いやすい」といったイメージが定着し始め、北米社会においてもこのような価値観が定着し始めた。結局ホンダの小型バイクはその後売上を順調に伸ばし、既存大型バイクメーカーを揺るがす地位にまで成長していった。現在では、この小型バイクでの成功を梃子に、大型バイクでもホンダの地位を確立しており、ホンダ以外にもスズキ、ヤマハ、カワサキがこれに加わっている。当時のハーレー・ダビットソンやBMWは、この新たな破壊的イノベーションに上手く対応することはできなかったのであろうか。

当初、アメリカに小型バイクのための市場というものはありませんでしたが、ホンダがスーパーカブを持ち込んだことで市場そのものが誕生しました。ホンダはその小型バイク市場の中で製品を磨き、やがてはかつて相手にされなかった大型バイク市場に乗り込んでいくことになりました。

スマホ市場で勝てなかったインテル

スマホのCPUメーカーといえば、Qualcomm。あるいはサムスンやアップルが自社のスマホのCPUを自分で作っています。そこにインテル製のCPUはありません。インテルはスマホ市場を無視していたわけではないようです。しかし、高性能なプロセッサを作る技術には長けていたものの、低性能・低消費電力なモバイル向けCPUでは競合のARMプロセッサを上回ることはできませんでした(詳細)。

スマホ市場で敗北しただけならまだ良かったのですが、今度はARMプロセッサがPC市場まで侵食して来ます。

PC市場を侵食し始めたARMアーキテクチャ

最近発売されたMacbookに搭載されている「Apple M1チップ」は極めて高性能かつ低消費電力で、Macユーザーにちょっとした衝撃を与えています。この「M1」は長年スマホに使われてきたARMアーキテクチャで設計されています。

ARMアーキテクチャはパソコンに比べて性能が低いモバイル市場で使われていました。そして市場の開拓、成熟に伴って徐々に性能を上げ、いよいよパソコン市場に乗り込めるまでに達したのです。

イノベーションのジレンマで挙げられている「新技術が上位市場を攻撃する」をまさに体現しています。

インテルには投資すべきでない

私はインテルの今後に否定的です。半導体プロセスでもTSMCの後塵を拝していますし、パソコン向けCPUは今後ARMアーキテクチャに取って代わられると見ています。そうすると、インテルに残された市場はサーバー向けCPUということになりますが、この市場でもエヌヴィディアがARMの技術を用いて参入することを発表しており、インテルの先行きは見通せません。

インテルは現在、PER13倍とかなり割安に見えますが、同社がおかれている現状を鑑みると、いくら割安でも投資するのは避けた方が無難な銘柄と判断せざるを得ません。

【参考】