先日、アルトリア(MO)の株価が急落しました。理由はバイデン政権がタバコに含まれるニコチン量を大きく制限することを検討していると報じられたためで、アルトリアの株価は2日で$52→$47と10%近くも下落しました。

メンソールを禁止するということも同時に報道されていて、売り上げの1/3をメンソールタバコで稼いでいるブリティッシュ・アメリカン・タバコも大きく株価を下げています。



MOは私のポートフォリオで保有比率最大の銘柄で、時価総額およそ400万円です。先日の急落では時価が一気に40万円減少。2か月分近くの給料が消えました。

私はフィリップモリス・インターナショナル(PM)にも200万ほど投資しており、合計で約600万円をタバコ株に投資しています。この2銘柄でポートフォリオ全体の20%を占めます。

タバコ株にここまで資金を投下している人は多くないかもしれませんが、高配当や安定したキャッシュフローが魅力的に映り、ポートフォリオにタバコ銘柄を組み込んでいる人は少なくないと思います。私もそうですが、タバコ銘柄の保有者は今回のような規制や健康問題のニュースにはいつもハラハラさせられているのではないでしょうか。

ということで、今回の急落を良い機会ととらえ、タバコ銘柄、とりわけ米国専業であるアルトリアとの付き合い方を考察して行きたいと思います。

1. 今回の報道の反応
まず今回の規制の話が、ニュースサイトや投資情報サイトでどのように扱われているかを見てみます。

大体のサイトは規制のニュースだけ報じていますが、Bloombergの記事にはシティグループのアナリストの見解が載っていました。

・この問題は今後何十年にもわたって議論されると思われる。次の10-15年で規制が実施されたら驚愕に値する

続いてSeeking Alphaの記事から。個人の書いた記事なのであくまで参考程度です。
・ニコチン含有量の規制はすぐにはできないだろう。
・タバコ業界は最大限抵抗すると予想される

あまり記事が見つからなかったので恐縮ですが、雰囲気としてはそこまで差し迫った感じはなさそうです。まぁ厳しい規制は無理だろうと、それがコンセンサスのようです(本当に規制されたらこの程度の下落では済みませんね)。


タバコの規制を議論する時、反対意見として以下の4点が良く言われます。
・ニコチンを規制しても、その分吸うタバコの本数が増えるだけで意味がない
・闇市場ができてしまう
・タバコ産業に関わる人々の雇用はどうするのか
・税収が減る

4つ目は規制する側である政府の覚悟次第な面があると思うので除外しますが、残り3つの主張は確かにもっともらしく聞こえます。……しかし、こういう主張が正しいか否かを証明するのは困難なので、結局はこうした反対意見を述べる反対派とのバランス取りつつ、妥協しつつ、少しずつ進めて行くという形になるのではないでしょうか。

また個人的な意見ではありますが、昨今の世論は別にタバコを今すぐ無くしたいとは考えていないように思えますし、その点からもやはり、規制するとしても長い時間をかけて行っていくのではないかと思います。

よって、タバコ業界にまだ時間は残されていると私自身は判断します。長期的には見通しの暗い業界だが、今回の急落はやや過剰判断かな、といった所です。

2. タバコ業界を待つ3つのシナリオ
今回の急落は過度に心配する必要がないという一応の結論が出たので、次はより長期的な視点でタバコ銘柄の将来を考えて行きたいと思います。「長期」を今後30年間と考えた場合、次の3つのシナリオがあると思っています。

1. 喫煙者が早いペースで減少し、タバコ業界が衰退する
2. 喫煙者が遅いペースで減少するも、値上げによって売上を維持/増加
3. イノベーションにより無害な喫煙が実現し、コーヒーなどと同レベルの嗜好品になる

投資家として一番望ましいのは3番目ですね。安定した配当、キャッシュフローに加えキャピタルゲインも期待できるようになるかもしれません。社会的にも望ましい。2番も投資家としては許容範囲です(社会的には良くないかもしれませんが)。キャピタルゲインは期待できませんが、配当再投資や自社株買いで地道に資産を増やせます。1番のシナリオの場合は損切してでも撤退するしかありません。

現実はどうかというと、2番に3番をちょっと混ぜた感じです。タバコ銘柄は出荷本数の減少を値上げでカバーすることによって売上高を維持しています。完全無害な喫煙というのは現時点では不可能ですがiQosの開発などのイノベーションは進んでいます。

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3. アルトリア株の現状
一言で言うなら売り込まれています。2017年頃は株価が$70近くありPERも高く割高感がありましたが、今の株価は$47で、2021年の予想PERは10倍です。私は確か2013年頃にアルトリアを購入してこれまでひたすらホールドしてきたのですが、感覚的には去年が最も売り込まれていました。最近は少し株価が上がりましたが、それでもかなり安い状態で、(既に底付近にいるから)良くも悪くもここから大幅に下落することはないように感じます。※あくまで感覚です

保有すべき株かどうかは置いといて、もし購入するなら今は良いタイミングだと感じます。

4. アルトリアの魅力
何を好き好んで将来の見込みが薄い業界の株を保有するのか。端的に言うと、インデックスに勝てる見込みがあるからです。

今のアルトリアは配当利回りが7.25%もあります。さらに、2011年~2020年の10年間で一株当たり営業利益は約2倍になっており、これは年率7%に相当します。つまり配当課税を考慮してもアルトリアの期待トータルリターンは

7+7.25×0.9(現地課税)×0.8(日本の課税)=12.22%

となり、S&P500の期待リターン9%(実質7%+インフレ2%)を大きく超えています。もちろん、NISA口座などを使って節税すれば差はさらに広がります。

喫煙者数の減少を値上げで補える状態が続く限り、アルトリアがインデックスをアウトパフォームする可能性は高いと私は考えています。不況にも強いので、恐慌時にインデックスとの差を大きくつけることもできそうです。ということで、アルトリアの2020年代のパフォーマンスには期待を寄せています。

5. 私のアルトリアとの付き合い方

アルトリアは優良銘柄ですが、規制のリスクなどを考えると、私はこの株を持ちすぎかなと思っています。近いうちは良いですが、将来に向けて徐々に保有比率を下げて行かなければならないと感じています。よって今後タバコ銘柄を買い増す予定はありません。他の株式に投資する中で、保有比率が徐々に減って行けば良いと考えています。

上記のように高いリターンを期待できる銘柄ではありますが、リスクも高いです。個人的に安心して保有できる範囲はポートフォリオの5%くらいです。将来的にはそこまで減らして行きたいです。

また、株価が上がりすぎた場合は売却も検討します。具体的にどこまで上がったら売るかですが、上記のS&P500との比較を使います。つまり、期待リターンがS&P500と変わらなくなったら売るということです。

例えば、株価が上がり、配当利回りが4%になった場合を考えます。配当課税を考慮したアルトリアの期待トータルリターンは

7+4×0.9(現地課税)×0.8(日本の課税)=9.9%

ここまで下がると、SP500とあまり変わらない期待リターンになります。わざわざリスクを冒してアルトリアを保有する理由がなくなるので、売却しても良いと思います。

または上述の通り、喫煙者数が急減し、値上げではどうしようもなくなった場合も撤退します。

まとめ
最後に、以上をまとめてタバコ銘柄との付き合い方を一文で表現すると以下のようになります。
「業界の動向を注視しつつ、キャピタルゲイン+配当のトータルリターンがS&P500を上回れそうな状況では許容できる範囲でリスクを取って投資する」