2007年、バフェットはある賭けをしました。

今後10年間でヘッジファンドがS&P500をアウトパフォームするかどうか、という賭けで、バフェットはできない方に賭けました。

相手はプロテジェ・パートナーズ社のテッド・セイデス氏。氏は「ヘッジファンドへの投資に特化した5つの投資ファンド」に投資しました。

結果は以下の通り。ヘッジファンドの惨敗でした。
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ヘッジファンドがインデックスに勝てない理由の一つは手数料が高いことです。ヘッジファンドに投資すると運用残高に加え、成功報酬も取られます。たとえ数%という小さな割合だったとしても、これが複利の力によって大きな差につながります。

バフェットが賭けを行い、そして圧勝したというエピソードは、コストが運用成績に大きな影響を与えることを示す好例です。

売却益にかかる税金がパフォーマンスを大きく下げる

ここからが本題です。投資の手法は数多くありますが、中長期的に売買を行う手法について考えてみたいと思います。例えば、割安に放置されている株を購入して3年ほど待ち、適切な株価に戻った時点で売却して新たな割安株に投資する、といった手法。あるいは、現在はインフレ率と金利が上昇局面にあり銀行株やエネルギー株の利益が伸びそうなので、こうしたセクターの株を買って、数年間保有し、上昇しきった所で売却して新たなトレンドに乗るという手法。

こうした手法は、企業の価値や経済情勢を考慮した上で投資を行っており投機ではありません。難易度は高いでしょうが、正しく実行する能力があれば、利益が出るでしょう。

しかし売買のコスト、特に売却益にかかる税金を考えると、そのハードルは相当に高いものになります。

2つのパターンを比較してみます。①5年毎に売却し、その都度20%の税金を払うパターン。②一度も売却せずひたすら保有するパターン。まずは、利回りがどちらも7%の場合を考えてみます。
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利回りがどちらも7%の場合(横軸は経過年数)

100万円を投資した場合、パターン①では250万円、パターン②では760万円になります。その差は歴然です。

つまり、S&P500と同程度のリターンしか出せないなら、アクティブ運用をする価値は全くないということです。現実には下線のことを実現するだけでも結構大変なのですが……。

ならば、どれほどの超過リターンを出せばアクティブ運用が勝つのでしょうか。結論から言えば、インデックスを最低5%上回るリターンです。先ほど比較した2つのパターンにおいて、今度はパターン①(5年毎に売買)のリターンを12%、パターン②(バイアンドホールド)のリターンを7%に設定します。
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利回りがパターン①:12%、パターン②:7%の場合(横軸は経過年数)

5%の超過リターンを出して初めて、バイアンドホールドを上回ります。それでも、僅差でしかありません。労力をかけてアクティブ運用する意義を見出すには、インデックスを6%上回るリターンを出す必要がありそうです。
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利回りがパターン①:13%、パターン②:7%の場合(横軸は経過年数)

100万円を投資した場合、30年後にはパターン①が1200万円、パターン②が760万円。これぐらいの差をつけてようやく、アクティブ運用する甲斐があるというものですね。

この6%という超過リターンは実現可能でしょうか。私は無理だと思います。「バフェットのアルファ」という有名な論文があります。その論文は、バフェットは銘柄選択に加え、保険会社の資金を用いてレバレッジをかけることによって、大幅な超過リターンを達成したと論じています。論文によると、バークシャーのレバレッジは1.7対1と推定されるそうです。問題は以下の部分。論文からの引用です。

例えば1.7対1のレバレッジを市場に適用すれば、市場の平均超過リターンは約12.7%に拡大するが、それでもバークシャーの平均超過リターン18.6%を大きく下回る

『バフェットのアルファ』p.8より

逆に言えば、レバレッジを調整すると、バークシャーのS&P500に対する平均超過リターンは18.6%-12.7%=5.9%になります。つまり、6%の超過リターンをあげるということは、バフェットを上回るということです。

どうせインデックスに挑むなら

以上の考察から、売買を繰り返してインデックスに勝つというのは一部の天才以外は無理だという話になります。一見インデックスに勝っているように見えても、税金を考慮すると負けているというケースは少なくなさそうです。

それでも市場平均を超えることを目指すなら、やはりバフェットがしてきたように、少なくとも主力銘柄については永久保有を前提に考えることが必要なのではないでしょうか。

先ほどのグラフに、パターン②と同じバイアンドホールド戦略をとり、年率リターンが②より1%多い1.08%(パターン③)と、年率リターンが②より2%多い1.09%(パターン④)を加えて比較します。
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5年毎に売買:パターン①=13%
バイアンドホールド:パターン②=7%、パターン③=8%、パターン④=9%

バイアンドホールドなら、1%の超過リターンを達成するだけで運用成績に有意な差がでます。2%の超過リターンならパターン①を超えることができます。これもまた難しいですが、少なくともバフェットと同じリターンを出さなければならないアクティブ運用よりも勝算があるのではないでしょうか。

結論

コスト、特に税金のインパクトは極めて大きい。頻繁に売買して売却益にかかる税金を支払わなければならない戦略は避けるべき。

インデックスに勝つためには、一生売らなくて良いほどの優良銘柄を選択し、どのような経済状況においても一度買った株は手放すことなく保有し続けなければなりません。そのような戦略に適した銘柄、すなわち30年後も繁栄している企業を探すことは、5年後に素晴らしい業績を上げる企業を探すこととは異なります。