最近は米国の金利が上がって来ていますね。それに伴って株式、特にグロース株が売られることが増えて来ました。また去年からそうですが、バブルを懸念する声も聞かれます。その他にもゲームストップ株の高騰など話題がいくつかあります。この記事ではそうした「景況感」をテーマに思ったことをつらつらと書いていこうかと思います。


教科書的に考えるとアメリカの長期金利はどれくらいになるのか

世界中の中央銀行が金融緩和を行っていますが、それが終了した際に金利はどこまで上がるのか。これを検討することは、金利とPERが逆相関している事実からも、株式の割安・割高を判断する上で欠かせないことです。私はこの辺についてあまり良く分かっていないので、基本から調べてみました。結論としては、低インフレが定着+経済成長率が鈍化した先進諸国では、1980年代のような非常に高い金利水準になる可能性は非常に低いことが分かりました。

Stock_bond_long_history
金利は上昇するが、1980年代の再来はなさそう


ネットでいくつかの資料を読んだところ、名目長期金利の算出には以下の計算式を使うことが多いようです。

名目長期金利=潜在成長率+予想物価上昇率+リスクプレミアム

ここで、潜在成長率は実質金利の代替変数です。この2つは長期的に近似するとのこと。

さて、この式で米国の長期金利がどうなるか考えてみます。
・米国の潜在成長率:2%
・予想物価上昇率:FRBのターゲットである2%
・リスクプレミアム:小さい
らしいので適当に0.1~0.3%とする

よって、物価目標達成時の名目長期金利は4%を超える程度になると思われます。

これが正しいことを検証する簡便な方法は、潜在成長率と予想物価上昇率を名目GDP成長率に置き換えて過去の実績を見ることです。すると確かに、以下のグラフで分かるように10年債金利と名目GDP成長率がかなり一致しています。
Treasuries-vs.-GDP-Pictet
赤:米10年債 黒:名目GDP成長率(出典:SNBCHF.com


現在の米国債利回りは以下の通り
US5Y 0.719
US10Y 1.431
US30Y 2.208

まだまだ上昇余地があります。思い返せば、2018年末頃には10年債が3.25%に迫っていたので、当時はそれなりに理論値に近づいていたようです。金利4%というのは、あの頃の景況感+αぐらいの感覚でしょうか。
MVFqv-us-10-year-yield (3).1567522482534



今、米国株はバブルなのか

バブルとは「資産価格と実体経済の大幅な乖離」だそうですが、その定義から考えると、今は割高であっても「大幅な乖離」はしていない気がします。ただ、割高とバブルの境界はどこにあるのでしょうね。リーマンショックは住宅バブルが崩壊したことが原因と言われていますが、もしFRBが完璧な対応をしてマイルドな下落に留められていたら、「崩壊」ではなく「調整」と形容されていたかもしれません。つまり事後の対応で、それがバブルかどうか変わってしまうわけです。この論点に立てば、現時点でバブルかどうかを議論するのはナンセンスなのかもしれません。元FRB議長のベン・バーナンキも「バブルとは、終わってみないとそれがバブルであったのか、それとも経済のファンダメンタルズを表したものであったのかは解らない」と言っています。


……といいつつも、一応議論を進めます。


バブル肯定派の根拠としてよく聞かれるのが、バフェット指数(米国株の時価総額合計/米国のGDP)がITバブル時を上回り史上最高水準にあるという点です。一方、バブル否定派の根拠として最もよく聞かれるのが、歴史的な低金利です。低金利によって高PERが正当化されるという理論です。では、低金利がどれほど株高を正当化するか、ですが、これについての定量的な分析は今のところ見たことがありません(専門家は行っているのかもしれませんが、個人投資家として日々参照するリソースにおいてはありません)。
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ITバブル期を超えたバフェット指数(ソース:yahoo finance


話はそれますが、「金利が上がるとグロース株が大きく売られる」というのもあちこちで言われていますし、これは割引率の関係から正しいのでしょうが、例えばバリュー株と比較して具体的にどのくらいの差があるのかを示す記事を読んだことは、やはりありません。

まぁ、この辺のことは定量的に算出できる問題ではないのでしょう、少なくとも現場レベルでは。

個人的には現時点ではバブルではないと思っています。先にも述べましたが、低金利の遠因には先進国の成長率鈍化があります。これは数十年単位のトレンドです。そう簡単には変わらないでしょう。
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米国実質経済成長率(10年平均)(出典:セントルイス地区連銀

成長を再び加速させるには何らかの革命的な変化が必要ではないかと思います。例えば、火星のテラフォーミングに着手するとか、AIのシンギュラリティ到達とかですかね。

そうした事が、少なくとも数年内に起こる可能性が低い現状を鑑みると、しばらくは高PERは支持されるのではないかと見ています。

バブルを懸念する声が上がっているもう一つの理由は投資アプリの「ロビンフッド」を介した投機的な動きですね。経済対策の給付金を受け取った若者たちがそのお金を投資につぎ込んでいると報道されています。

バイデン政権は新たに1.9兆ドルの追加経済対策を実施するようです。先日、下院で可決されました。これには1400ドルの現金給付が含まれています。この現金給付もきっとロビンフッドを通じて株式市場に流れ込んでくるのでしょう。

財政出動に加え、FRBの金融緩和も続いています。バブルにはそれを正当化する根拠がつきものですが、もし今回がバブルになるとすれば、根拠はこれでしょうか。日本のバブル景気では「日本は土地が狭いから不動産価格は上がり続ける」と言われていましたし、ITバブルでは「IT企業はデジタル空間でビジネスを行うのだから無限に利益を上げられる」と言われていたようです。今回は「経済対策が支えているのだから絶対に株価は上がる」と……。

賢明な投資家を目指して

バフェットの言葉は印象に残るものが多いですが、最近は特に以下の名言がよく脳裏をよぎります。
Be Fearful When Others Are Greedy and Greedy When Others Are Fearful(他人が貪欲な時は恐れ、他人が恐れている時は貪欲に)

ゲームストップ株が高騰したのは「ヘッジファンドの売りに対抗する」という動機で個人投資家たちが結託したのが理由でした。正直、ニュースを聞いて「なんじゃそりゃ」と思った(勝ってしまったところも含めて)のですが、市場に参加する理由は人それぞれですからね。

ただ一つ言えることは、こうした行動は市場に歪みを作り出すということです。その歪みは利益を上げる好機になります。上述の経済対策などの結果、個人投資家の存在感がますます高まってくるかもしれません。それに伴って、一見不可解な株価の変動なども発生する可能性があります。そのような時に一喜一憂せず、冷静に市場に参加し続け、合理的な選択をして行きたいものです。