今、ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー』を読んでいます。何年も前から読みたかった本なのですが、中々時間が取れませんでした。やっと読めました。その中に統計についてのおもしろい話がでてきます。およそ次のような話です(設問自体はうろ覚えです)。
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Q1.アメリカで腎臓がん患者が少ない場所を調べたところ、中西部の自然が豊かで、人口が少なく、電車通勤よりも車通勤が普通の町が上位にランクインした。なぜこのような地域では腎臓がんが少なくなるのか。
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この質問を見ると、多くの人が因果関係の候補を見つけられます。自然が豊かだから、電車に乗らないからストレスが少ないから、など。
しかし、次にカーネマンは、次の質問を投げかけます。
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Q2.アメリカで腎臓がん患者が多い場所を調べたところ、中西部の自然が豊かで、人口が少なく、電車通勤よりも車通勤が普通の町が上位にランクインした。なぜこのような地域では腎臓がんが多くなるのか。
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要するに、これは標本の大きさが不十分なことから生じる問題だということです。人口が少ない町はそのサンプル数の少なさ故、統計的なブレが生じやすく、そのため腎臓がん患者が多い町も少ない町も現れやすいのですね。

株式投資の場合
さて、この話は単に読み物としてもおもしろいのですが、せっかくなので投資に生かしたいところです。そうしたときに、真っ先に思い浮かんだのはジェレミー・シーゲル教授の『株式投資の未来』でした。タバコ、エネルギー、生活必需品、ヘルスケアといった業界の銘柄が過去50年にわたって高いパフォーマンスを残したことを明らかにした著書でしたが、これら業界のその後(2003年以降)のパフォーマンスはそんなに良くありません。主な問題点として、標本の少なさ(小ささ)が挙げられます。『株式投資の未来』の測定期間は50年程度で、これはビジネスのスケールからすると短すぎると言わざるを得ません。言い換えると、高いパフォーマンスを残した銘柄は単に幸運だったのではないか、ということです。『株式投資の未来』に書かれている内容を信じて大金を投じるるというのは、例えるなら旅行先で一週間中5日雨だったことでその地方は晴れの日より雨の日が多いと思い込むようなものなのかもしれません。
『株式投資の未来』においてシーゲル教授は上記銘柄が良い結果を残した理由を説明しています。不人気で株価が抑えられたこと、設備投資が比較的少なくて済んだこと、などです。確かにもっともらしく聞こえます。実際に、これらの要因が因果関係を持っている可能性は否定できませんし、その場合、今は低迷しているタバコ業界やエネルギー業界もここから復活してくるのかもしれません。ただいずれにせよ、統計的に十分と言えるほどの試行回数を確保することは当分できません。何しろシーゲル教授の評価測定期間は50年というスケールです。仮に30年に縮めたとしても、10回分のサンプルを得るのに300年かかります。
『株式投資の未来』におけるこの特徴がもたらすもう一つの問題点は、その前提となっている運用期間が超長期であるため、人生後半にならないと自分の投資が成功だったかどうかわからないということです。ほとんどの人にとってはたった1回かせいぜい2回(20歳で始めて30年×2周→80歳になっている)しか結果を確かめる機会がありません。そうすると、やはり運の要素が大きく絡んできます。シーゲル教授の理論を心底信じているなら別ですが、そうでないなら、確信を持って数十年間配当再投資を続けるというのは相当な精神力が必要です。途中で方針を守るべきか、変えるべきか、何度も迷うことになるでしょう。
標本サイズを大きくする
何十回、何百回と試行して上手く行くことが確認できれば、その手法の信頼性は高まります。人の一生の長さが変わらない以上、その中で試行回数を増やすには、投資期間を短くとるよりほかはありません。となると、
・デイトレード・スイングトレード
・裁定取引
・数年程度のバリュー投資
この辺りが選択肢になってくるのではないかと思います。デイトレード・スイングトレードは私はしませんが、もしこれで安定的に稼げるなら強いでしょうね。試行期間が一日~数日ですから、標本サイズは1,2年もあればかなり大きくなり、よって統計的な信頼性も得られます。Amazon株に全財産1000万円を投じてたまたま当たった投資家とは統計的な信頼度が違います。もっとも、デイトレで稼げるという一部の天才に限る話ではありますが。
裁定取引も同様です。取引期間が短いため試行回数が多くなり、すぐに統計的に有意な利益がでるかどうか見極められます。が、やはりこれも、裁定取引を実行する高い能力が必要です。
バリュー投資は上記2つにくらべると期間が長いですが、年に10銘柄ぐらい買って、5年運用してみれば50という標本数が得られるため、ざっくりした成否は見えてくるのではないでしょうか。この記事で言いたかったことは結局ここなのですが、つまりバリュー投資は統計的な妥当性を確保する(=それが運ではなく実力であることを実際に何回かやってみて確認する)という観点においても、そこそこ有用な投資法なのではないかということです。
補足:不動産投資
不動産投資というのは世間で言われている以上にリスクが高いのではないかと私は思います。不動産は通常数千万円はかかるもので、よって多くのにとって一生で一度の買い物になります。失敗を次に生かすという経済的、生活的余裕は殆の人にはありません。株式ならいくつかの銘柄に分散させることもできますが、不動産では(富裕層でない限り)難しいです。もし家を買うということを、結婚や子育てなど人生の出来事の一つとして位置付けるのであれば、それでも構わないと少なくとも私は思いますが、投資として見た場合、このチャレンジ回数が限られ、しかも一度に数千万が動く不動産投資というものには株式投資以上の怖さを感じます。
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Q1.アメリカで腎臓がん患者が少ない場所を調べたところ、中西部の自然が豊かで、人口が少なく、電車通勤よりも車通勤が普通の町が上位にランクインした。なぜこのような地域では腎臓がんが少なくなるのか。
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この質問を見ると、多くの人が因果関係の候補を見つけられます。自然が豊かだから、電車に乗らないからストレスが少ないから、など。
しかし、次にカーネマンは、次の質問を投げかけます。
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Q2.アメリカで腎臓がん患者が多い場所を調べたところ、中西部の自然が豊かで、人口が少なく、電車通勤よりも車通勤が普通の町が上位にランクインした。なぜこのような地域では腎臓がんが多くなるのか。
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要するに、これは標本の大きさが不十分なことから生じる問題だということです。人口が少ない町はそのサンプル数の少なさ故、統計的なブレが生じやすく、そのため腎臓がん患者が多い町も少ない町も現れやすいのですね。

サムネイル画像は原書
株式投資の場合
さて、この話は単に読み物としてもおもしろいのですが、せっかくなので投資に生かしたいところです。そうしたときに、真っ先に思い浮かんだのはジェレミー・シーゲル教授の『株式投資の未来』でした。タバコ、エネルギー、生活必需品、ヘルスケアといった業界の銘柄が過去50年にわたって高いパフォーマンスを残したことを明らかにした著書でしたが、これら業界のその後(2003年以降)のパフォーマンスはそんなに良くありません。主な問題点として、標本の少なさ(小ささ)が挙げられます。『株式投資の未来』の測定期間は50年程度で、これはビジネスのスケールからすると短すぎると言わざるを得ません。言い換えると、高いパフォーマンスを残した銘柄は単に幸運だったのではないか、ということです。『株式投資の未来』に書かれている内容を信じて大金を投じるるというのは、例えるなら旅行先で一週間中5日雨だったことでその地方は晴れの日より雨の日が多いと思い込むようなものなのかもしれません。
『株式投資の未来』においてシーゲル教授は上記銘柄が良い結果を残した理由を説明しています。不人気で株価が抑えられたこと、設備投資が比較的少なくて済んだこと、などです。確かにもっともらしく聞こえます。実際に、これらの要因が因果関係を持っている可能性は否定できませんし、その場合、今は低迷しているタバコ業界やエネルギー業界もここから復活してくるのかもしれません。ただいずれにせよ、統計的に十分と言えるほどの試行回数を確保することは当分できません。何しろシーゲル教授の評価測定期間は50年というスケールです。仮に30年に縮めたとしても、10回分のサンプルを得るのに300年かかります。
『株式投資の未来』におけるこの特徴がもたらすもう一つの問題点は、その前提となっている運用期間が超長期であるため、人生後半にならないと自分の投資が成功だったかどうかわからないということです。ほとんどの人にとってはたった1回かせいぜい2回(20歳で始めて30年×2周→80歳になっている)しか結果を確かめる機会がありません。そうすると、やはり運の要素が大きく絡んできます。シーゲル教授の理論を心底信じているなら別ですが、そうでないなら、確信を持って数十年間配当再投資を続けるというのは相当な精神力が必要です。途中で方針を守るべきか、変えるべきか、何度も迷うことになるでしょう。
標本サイズを大きくする
何十回、何百回と試行して上手く行くことが確認できれば、その手法の信頼性は高まります。人の一生の長さが変わらない以上、その中で試行回数を増やすには、投資期間を短くとるよりほかはありません。となると、
・デイトレード・スイングトレード
・裁定取引
・数年程度のバリュー投資
この辺りが選択肢になってくるのではないかと思います。デイトレード・スイングトレードは私はしませんが、もしこれで安定的に稼げるなら強いでしょうね。試行期間が一日~数日ですから、標本サイズは1,2年もあればかなり大きくなり、よって統計的な信頼性も得られます。Amazon株に全財産1000万円を投じてたまたま当たった投資家とは統計的な信頼度が違います。もっとも、デイトレで稼げるという一部の天才に限る話ではありますが。
裁定取引も同様です。取引期間が短いため試行回数が多くなり、すぐに統計的に有意な利益がでるかどうか見極められます。が、やはりこれも、裁定取引を実行する高い能力が必要です。
バリュー投資は上記2つにくらべると期間が長いですが、年に10銘柄ぐらい買って、5年運用してみれば50という標本数が得られるため、ざっくりした成否は見えてくるのではないでしょうか。この記事で言いたかったことは結局ここなのですが、つまりバリュー投資は統計的な妥当性を確保する(=それが運ではなく実力であることを実際に何回かやってみて確認する)という観点においても、そこそこ有用な投資法なのではないかということです。
補足:不動産投資
不動産投資というのは世間で言われている以上にリスクが高いのではないかと私は思います。不動産は通常数千万円はかかるもので、よって多くのにとって一生で一度の買い物になります。失敗を次に生かすという経済的、生活的余裕は殆の人にはありません。株式ならいくつかの銘柄に分散させることもできますが、不動産では(富裕層でない限り)難しいです。もし家を買うということを、結婚や子育てなど人生の出来事の一つとして位置付けるのであれば、それでも構わないと少なくとも私は思いますが、投資として見た場合、このチャレンジ回数が限られ、しかも一度に数千万が動く不動産投資というものには株式投資以上の怖さを感じます。
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