2021年5月21日更新:2020年決算内容を反映

アルトリア・グループ(NYSE: MO)は高配当と安定したキャッシュフローが魅力のタバコ銘柄です。ジェレミー・シーゲル『株式投資の未来』において歴史的に最もリターンが高かった銘柄として紹介されたことでも知られています。世界で最も有名なたばこブランドであるマルボロを保有しています。2008年にフィリップ・モリス・インターナショナルをスピンオフし米国内専業に。社名もフィリップ・モリスからアルトリア・グループに変わりました。たばこの他にワインも販売していますが、収益のほとんどはたばこ販売からもたらされます。

年表

1835年:創業者のフィリップ・モリス氏がイギリスで生誕
1854年:氏の最初のたばこ"Philip Morris English Ovals"を作る
1902年:ニューヨークに子会社を設立
1919年:George J. Whelanが米国部門を買収
1924年:マルボロを発売

マルボロは1930年代に女性向けたばことしてマーケティングしますが、あまり成功せず、一時は市場から撤退しました。その後、1960年代に戦略を転換して男性向けとしてマーケティング。これが大成功し、急激にシェアを伸ばし始めます。1972年にはマルボロが世界で最も売れているブランドになりました。

1970年:Miller Brewing Company買収(後にSABMillerに)
1985年:ゼネラル・フーズ買収
1988年:クラフト・フーズ買収
2001年:クラフト・フーズをスピンオフ(その後クラフト・ハインツに)
2007年:社名をアルトリア・グループに変更
2008年:フィリップモリス・インターナショナル(PMI)をスピンオフ


多角化に取り組んできた歴史
アルトリアはたばこ一辺倒の事業リスクに対応すべく、他業種を買収してきた歴史があります。1970年代はビール、1980年代は食品事業を買収しました。ビール事業についてはスピンオフや買収の結果、現在アンハイザー・ブッシュ・インベブの株主という形で落ち着いています。食品事業については2001年にクラフト・フーズとしてスピンオフし、現在は資本関係はありません。

ここ最近はたばこ業界または近傍分野におけるイノベーションに投資しています。
・電子タバコJUUL
・マリファナ産業のクロノス・グループ
・ニコチンパウチ「on!」を販売するスイスのBurger Söhne Holding AG

このうち、JUULへの投資はもはや失敗で間違いないでしょう。投資額の大半を減損処理しました。1年間の全利益に相当する額が失われています。

クロノス・グループやon!への投資は長く見守っていく必要がありそうです。


より期待が持てそうなのが、米国内における加熱式タバコIQOS(アイコス)の販売です。IQOSはフィリップ・モリス・インターナショナルが開発しましたが、米国内の販売はアルトリアが行います。この辺は元々同じ会社だったので当然といえば当然です。

IQOSについてはアメリカFDAがModified Risk Tobacco Products(MRTPs)として販売することを認可しました。FDAから「リスクがより少ない」とのお墨付きをもらったことで、今後のビジネスがやりやすくなったことは間違いありません。ただ、米国では加熱式タバコの普及がまだ始まったばかりです。この点においては日本などの方が進んでいます。米国でiQOSが成功するかどうかは、まだまだ分かりません。


売上/利益

MO_revenue

※売上高はたばこ税を含まず

データはスピンオフ後の2008年からのみ。この10年間の売上は微増。しかし、営業利益は着実に増えています。売上は落ちていませんが、たばこの販売本数は減少傾向にあります。それを値上げで補っている形です。本数自体は減っているので、原価や経費が浮きます。それによって売上は並行でも利益が増えるという構図になっています。営業利益率も上がり続け、今や米国トップクラスにまで達しました。米国の大型株(SP100)の中でアルトリアより高い利益率を出しているのはビザ、マスターカードぐらいです。

2016年はアンハイザー・ブッシュ・インベブがアルトリアの保有するSABミラーを買収したことにより、一時的に利益が上がっています。

2019年に128億ドルをJUULに投資したものの、同2019年や2020年には減損処理を行っています。それにより純利益が落ち込んでいます。

EPS
MO_eps

2016年以降は一時的な利益・損失があってあてになりません。

株価とPER
MO_price

2010年代はPERが上昇傾向にあり、株価上昇の半分ぐらいはこれが理由です。2017年に$70ドルでピークをつけた後、株価は下落。2021年5月現在の株価は50ドル辺りです。2021年の予想PERは11倍とここ10年の水準から見て割安な値がついています。

配当
MO_dividend

MOは利益の85%を配当として還元するとしています。そのため、前年のEPSから翌年の配当が大体読めます。そのため、EPSが伸びる→次の年の増配が楽しみになる、という楽しみ方?ができます。

2020年を除けば、毎年8%を超える増配を続けてきました。高い配当利回りでありながら毎年の十分な増配。これがアルトリアが非常に魅力的な点です。

自社株買い

MO_buybacks

米国の他の優良企業と比べると、自社株買いの量はそこまでではありません。利益の8割超を配当として出していることもあり、自社株買いではなく配当で還元する方針なのでしょう。JUULへの巨額投資が失敗していることもあり、今後も大規模な自社株買いは期待しないほうが良さそうです。


今後も高いリターンをもたらすか

ジェレミー・シーゲル教授が書いた『株式投資の未来』において、フィリップ・モリスは過去50年のトータルリターンが最も高かった株として紹介されていました。その理由は、①たばこ銘柄は訴訟などのリスクで株価が常に抑えられていたが、②それにもかかわらず事業は成長を続け、③低バリュエーションゆえの高配当がリターンを押し上げた、そうです。

なるほど、確かに今のアルトリアを見ると、予想PERは10倍ちょっとしかないし、配当利回りもS&P500の中で突出して高い。①と③の条件は今後も成立しそうです。

②はどうでしょうか。下の図は1980年以降のフィリップ・モリスの売上高の推移です。
MO_revenue_long

売上高がインフレ以上に伸びています。1980年代や90年代のフィリップ・モリスはトップラインが成長していたのです。それに対して2010年代はというと、上の図にあるように、売上高はインフレ程度にしか伸びていません。現在のアルトリアの売上高の伸びは以前よりも鈍化しています。

これから言えることは、アルトリアは今後、『株式投資の未来』で扱われた過去数十年ほどのリターンを残せない公算が大きいということです。もちろん、それでも魅力的な銘柄であることには変わりありませんが、期待リターンにおいては、過去の実績を過信せず見ていく必要がありそうです。

いつか、どこかで限界が来る

成長が鈍化したとはいえ現在のビジネス環境が今後も続くのであれば、それは悪い話ではありません。アルトリアを含むたばこ業界が直面している本質的な問題は、値上げという戦略が持続的ではないことです。消費者がどこまで値上げに追従できるかは分かりません。10年、20年この戦略が持つ可能性も否定できません。ただし、無限に続けられるものでないことはわかっています。たばこ銘柄はその中毒性ゆえに毎年のキャッシュフローが安定していますが、この問題があるので買って放置とは行かない銘柄でもあります。

そういった点を踏まえた私自身の投資方針はここに書いてあります。