2022年2月現在において、株価が過大評価されているかははっきりとは分かりませんが、少なくとも割安水準にはありません。市場平均はコロナショック後上昇を続けており、過去の平均よりは割高な値を付けている銘柄が多くなっています。

こういう市況では、「株価が上がった銘柄は売るべきか?」という疑問を持つのは自然なことのように思います。私自身、去年の冬ぐらいからいくつかの銘柄を売りたい衝動に駆られて来ました。(具体的に言えば、今ならABBVを一部売却した方が良い気がしています。この銘柄はヒュミラの特許切れが迫っていますが、株価は上昇を続けており、悪材料が出ると大きく下がるように思います。)

そういうわけで、今日はこの疑問について整理してみたいと思います。


1. そもそも株を売るべきかどうか
まずはこの問いを考えます。私の見解としては、購入時の考え方を売却時にも適用したら良いのではないかと思います。例えば、インデックスを定期購入しているなら、株価がいくら上昇しようとも売らないことが理にかなっています。この投資手法というのは、マーケットタイミングは読めないという前提に立脚しているからです。逆に、市場暴落時に割安銘柄を購入するという手法で投資をしている、すなわちマーケットタイミングは読めるという信念を持っているなら、割高になった銘柄は売る方が行動に一貫性があります。

要は買いと売りの信念の整合性を保つということです。これまでドルコスト法で積み立てて来たのに、株高時に売ってしまうというのは、言い換えれば「割安かどうかは判断できないが、割高かどうかは判断できる」と言っているようなものです。


インデックス積立投資を行う場合は売却しないのでここで話が終ります。ここからはバリュー投資を行う、つまり割安・割高を判断しながら投資する場合を想定して、売却タイミングをさらに検討します。


2. どのぐらいの水準で売るか
購入時と売却時の基準を同じにすると考えると、次のようになります。適正価格より10%割安になった銘柄を購入する投資法の場合→10%割高になったら売る。適正価格より20%割安になった銘柄を購入する投資法の場合→20%割高になったら売る。

しかし、この考え方は直観的に変な感じがしますね。10%あるいは20%割高になっただけで売って良いのか、と。例えばアップルやマイクロソフトの株価はここ数年で大きく上昇しましたが、多少割高に評価された時期もあったでしょう。その時に売ってしまっていたら、持ち続けた場合ほどの利益は得られなかったわけです。一方で適正価格の10%割安で買えたらそれは成功しているように見えます。20%なら大成功です。アップルやマイクロソフトの株価を10%~20%の割引価格で買えるなら、多くの人が買いたいと思うでしょう。しかし、たった10%~20%のプレミアムで売りたいと思う人は少ないはずです。購入と売却の物差しは同じではないように見えます。

ポイントは、株式の本質的なリターンがプラスだということです。割引キャッシュ・フロー法により企業の現在価値が算出されるはずですが、将来は不確実であり、すべてを織り込むことはできません。現実には不確定だった未来が確定していく(決算発表)ことを通じて、株価は上昇して行きます。株価には基本的に上昇圧力がかかっているのです。つまり、割高な状態は正当化(維持or上昇)されやすく、割安な状態は修正(上昇)されやすいと言えます。

そして、この上昇の波は前倒しでやって来ることがあります。コロナ禍においてIT企業が将来の成長を先取りしていると言われていますが、これがその好例です。多少割高だからといってゲームを降りると、この波に乗れません。チャールズ・エリス『敗者のゲーム』でも書かれていますが、市場は大きく上昇する時があり、その時に市場に居合わせていなければならないのです。多少割高だからといって売却することは、機会損失につながる可能性があります。


3.安全域と 購入・売却の非対称性
株価には基本的に上昇圧力がかかっていることを踏まえた上で、安全域の考え方を取り入れます。購入時には、適正価格より大幅にディスカウントされている、つまり安全域が大きくとれる銘柄を狙うことがバリュー投資の成功には不可欠だとされていますね。これを売却時にも応用することが本記事の趣旨です。購入時には安全域を大きくとることで、損失リスクを低減させることができました。それに対して、売却時には安全域を大きくとることで、機会損失のリスクを低減させることができます。

購入時において安全域がとれない株価水準での投資は損失のリスク(=予想に反し株価が伸びないor下がる可能性)が高いため避けるべきであるのと同様に、売却時において安全域がとれない株価水準での投資は機会損失のリスク(=売却後に株価が大きく上昇してしまう可能性)が高いため避けるべきです。

この安全域を大きくとる、という考えに基づけば、10%のディスカウント/プレミアムよりも、20%、30%、あるいは40%のディスカウント/プレミアムが望ましいということになります。しかしそれはある意味当たり前ですね。超過小評価されている株なら誰もが買いたいでしょうし、超過大評価されている株なら誰もが売ろうと思うでしょう。実際の運用では現実的なラインを設定しなければなりません。

例えば、ある投資家が、S&P500が50%下落したときに投資したいと考え、その時を待っているとします。しかし、この投資家が報われるかどうかは不明です。50%を超える株価下落は米国市場の歴史を見ても稀であり、それを待っていると、いつまで経っても投資できない恐れがあります。もしこの投資家がリーマンショック後に投資を始めていたなら、今まで1ドルも投資できていません。つまり、資金はどこかで入れなければならないということですね。

一方、売却では考え方が反対になります。資金は既に投下されており、企業が株主のために働いている状態です。下手に売却すると、得られたはずの利益を失う可能性があります。米国株長期投資を実践している人なら経験したことがあると思いますが、やや割高な株価だと思っていた企業が好決算を出して、株価がさらに数十%上昇して行くことが割と良くあります。このような機会を逃すと大幅な損失になります。

つまり、購入時においては、「待つことで大失敗するリスク」があり、売却時においては、「早く動くことで大失敗するリスク」があります。

以上を踏まえると、安全域は大きければ大きいほど良いですが、購入時は「購入タイミングが訪れる程度に現実的な幅(つまり小さめに)」、売却時は「サプライズがあった際に機会損失しない余裕をもった幅(つまり大きめに)」というスタンスが望ましいのではないかと思います。

4. 具体的な数値の検討
これについては答えはないと思いますが、以上の議論を踏まえ個人的な感覚を述べたいと思います。

購入時:5~10年に一度訪れる下落時に購入できる程度→20~30%のディスカウントを目安に購入して行く。

売却時:多少のプレミアムは好決算が出れば正当化されることがあるため、適正価格の1.5~2.0倍という大幅なプレミアムがついた場合に限り売却する。ただし、グロース株や小型株では調整が必要かもしれない。

5. 補足
①売却タイミングは他にもあります。例えば、明らかに割安で有望な投資先が他にある場合に、今保有している銘柄を売却して資金を捻出するケース。事業環境が変化し、企業に魅力を感じなくなったケース。しかし、あくまで本記事ではとある企業の株価が上昇し、それをどう扱うかというケースに絞って考察しました。

②売却では税金も考慮する必要があります。