今回はマイクロソフト(MSFT)の将来について考えてみたいと思います。まずはマイクロソフトの株価の推移を振り返ります。

2000年1月1日:$48.94
2010年1月1日:$28.18
2020年1月1日:$170.23

約20年前の2000年はITバブルの真っ只中。マイクロソフトにも高い値が付いていました。翌年の2001年には30ドルほどに下落しています。そこから10年後の2010年でも株価は$28.18。ほとんど変わっていません。この時期にマイクロソフトに投資していた人はもどかしい思いだったでしょう。この冬の時代は2013年ぐらいまで続きましたが、その後は上昇に転じます(この辺りで見切りをつけて売ってしまった人にとっては非常に大きな機会損失となりました)。

2021年4月現在の株価はおよそ$260と、10倍近くになりました。

マイクロソフト復活の要因は、Microsoft Officeのサブスクリプションへの移行と、クラウドサービスという新規事業の成功です。特にクラウドサービスは高成長率、高利益率とあって、投資家のマイクロソフトに対する成長期待もここ数年で大きく変わりました。

直近10年のマイクロソフトのPERを見てみましょう(下図)。2010~13年のPERは10~13倍と、今では考えられないほど安い値がつけられていました。当時はサブスクリプションもクラウドもなく、マイクロソフトの成長見通しは低かったのです。

MSFT_valuation_2021

そんな形でバリュー株→グロース株への変身を遂げたマイクロソフトですが、数年後はまだしも10年後は再びバリュー株に逆戻りしているのではないか、というのが今回の記事の趣旨です。以下のマイクロソフトの事業セグメントを見ながら考えて行きたいと考えています。

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マイクロソフトの事業セグメント(出典:FINDERS


①PCマーケットの飽和
Officeプロダクトは売り上げの25.7%を、Windowsは17.7%を占めています。前述のようにサブスクリプションへの移行に伴って売上高が伸びていますが、下図のように、PCの出荷台数自体はすでにピークアウトしています。
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ソフトを載せるハードが飽和しているのですから、サブスクリプションへの切り替えが完了すればそれで売上の伸びは止まります。

サブスクリプションの四半期ごとの売上高成長率は29%→27%→27%→23%→21%と減速傾向にあり、今後もこの傾向が続くと思われます。このペースが続くと仮定すると、そう遠くないうちに月並みな成長率まで低下します。
Microsoft-FY20-Q1-Productivity-and-Business-Processes


②クラウドのコモディティ化
次にマイクロソフトの今後を左右するであろうクラウド事業について。現在、アマゾンのAWSに次ぐ業界2位の立ち位置ですが、成長率はAWSより高く、追い上げが期待されています。投資家のマイクロソフトに対する期待はクラウド事業あってのものです。

今後も安定して成長すると予想され、当分の間は安心して見ていられると思いますが、将来、クラウド市場はコモディティ化してレッドオーシャンに変わる可能性があります。

Windowsはパーソナル・コンピューター市場で独占的な地位を築きました。MacやLinuxを使う一部のユーザーを除き、パソコンを買う=Windowsを使うという構図がありました。

それに比べれば、クラウドサービスは随分とありふれたビジネスだな、と正直思います。アマゾン、マイクロソフト、グーグルの上位3社の他にも、クラウドで再建を目指しているIBM、中国のアリババなどプレーヤーはたくさんいます。

③巨大IT企業の独占禁止
その規模を活かして事業を買収する方法も考えられますが、大手IT企業に対する風当たりはますます強くなっており、政府によって阻止される可能性があります。IT大手による独占を懸念する声は米国はもとより、EUや日本などでも大きくなっており、世界的なトレンドと見て良いでしょう。

マイクロソフトのその他の部門にはXboxやLinkedIn、Bingなどがあります。マイクロソフトの規模を考えれば、これらが将来の屋台骨になることはほぼないでしょう。


全盛期を過ぎたマイクロソフト
Windowsが登場した頃のマイクロソフトは、世界を一変させる可能性を持った企業で、そして実際に世界を変えました。PCが普及し、多くの人が仕事や生活でパソコン、インターネットを利用するようになったのはマイクロソフトのおかげです。しかし、その唯一無二の製品であるWindowsやOfficeの成長が止まり、クラウド企業へと姿を変えつつあるマイクロソフトは、良く言えば時代に合わせて進化しているのかもしれませんが、悪く言えば普通の大企業になりつつあるのかもしれません。

遠い将来、コカ・コーラやP&Gのように時代を超えて生き続ける企業になっているのか、役目を終えた企業になっているのかは分かりませんが、Windowsのような革命的製品をもう一度世に送り出すことはきっと難しいでしょう。そのため、マイクロソフトはすでに全盛期を過ぎているのではないかというのが私の意見です。