前回の記事の続きです。

今後バリュー株の時代が再び訪れるならば、どのようなシナリオが考えられるでしょうか。

1. インフレにより金利が上昇
物価が上がりすぎると、中央銀行はインフレを抑制するために金利を引き上げます。金利が上昇することで割引率も上昇します。将来生み出すキャッシュフローに株価が大きく依存するグロース株は割引率上昇の影響をより多く受けます。

コロナ禍からの経済活動再開に伴い、消費者がこれまで抑えてきた購買活動に向かうことでインフレを引き起こすという予測が昨年からありますが、現在のところ高インフレの傾向は見られません。金利も最近は落ち着いています。よって、近いうち(2021~2022年)にこのケースが起きる可能性は低そうです。

もう少し先の話ではどうでしょうか。数年後にコロナ禍から無事脱しているとすれば、FRBが金融緩和を縮小させ、それに伴い金利が上昇することでグロース株が売られるシナリオが考えられます。しかし、FRBが段階的に金利を上げていった2015年から2019年においてグロース株優位の状態が続きました。

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理論上は金利の上昇はグロース株に不利に働きますが、2010年代後半のグロース株にはそれを乗り越えるほどの実力が伴っていたということでしょう。グロース株が大きく売られるには金利がもっと上がらなければならないのかもしれません。しかし、この時代に金利が5%,6%といった高さになることは考えにくいです。詳細は以下の記事を参照してください。




2. グロース株がさらに値上がりしバブルになる
これも一応シナリオとしてあげましたが、実際どうでしょうか。ITバブルの頃と違い、今のIT企業は利益をしっかりあげています。PERも謙虚な値がついているように思います。
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予想PER

これはS&P500の予想PERですが、GOOGLで26倍、FBで23倍です。対して、KOやPEPが24倍です。正直、これを見る限り過大評価されているのはグロース株ではなくバリュー株の方ではないのかと思ってしまいます。


3. 米国の景気後退、ドル安によるグローバル大企業への追い風

歴史のある大企業ならば既に世界各地で事業を行っているでしょうが、新興企業はまず米国で成功し、その後世界に展開するパターンが多いように思います。例えばZoomの売り上げは南北アメリカが9割以上です。このうち米国が何%かはわかりませんが、大半を占めるはずです。
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米国大企業の国内(米国)売上比率を見ると、次のようになっています。
Amazon: 68%
Microsoft: 50%
PG: 44%
Exxon Mobil: 35%
Coca Cola: 34%

例外はあるでしょうが、一般的な傾向としては成熟した大企業ほどグローバル展開が進んでおり世界各地から利益を得ていると考えられます。

これが意味することは、第一にグローバル企業は米国が不況に陥ったとしても他国である程度埋め合わせることができるのに対し、米国に依存する新興企業は不況の影響をもろに受けるということです。米国が今後何らかの理由で不況になった場合、世界各国に展開するグローバル企業(=バリュー株の多く)の方が業績が良くなるかもしれません。第二に、グローバル企業はドル安を味方につけてドル建て利益を増やすことができるということです。例えば米国側売上比率が66%のコカ・コーラはドルが10%安くなることで、売上高が概算で10%×2/3=6.6%増えます。実際、リーマンショック後から2013年くらいまではドルが弱かったことも、KOやPMが(ドル建てで)好調だった要因の一つです。

しかし、リーマンショックはグロース優位への転換点になっている点も忘れてはいけません。あくまで複数の要因が絡むということです。個人的な考えではありますが、リーマンショック時は金利を引き下げる余地があったことがグロース株優位の結果を生みましたが、次の景気後退局面では、もし金利を上げ切る前に不況に突入した場合、金利を引き下げる余地がないことでリーマンショックとは異なるシナリオに進む気がしています。

基本路線はグロース優位だが、未来は何が起きるかわからない

ITバブルの頃と違うことは、現在のGAFAMは利益を確実に上げており、利益に基づいた値段がついていることです。グロース株の例えば30倍のPERというのは歴史的には高水準かもしれませんが、バリュー株のPERが20倍以上になっている今、相対的には高いどころか安いと言えるかもしれません。

もし現状が維持されるなら、グロース株が今後も伸びていくと予想します。しかし、コロナショックを誰も予想できなかったように、次のインフレや不況も何が原因で始まるか分かりません。投資は時として退場しないことが最も大切になります。市場にしがみつきさえすれば、いつか株価は戻る。そのためにはある程度バランスも心掛けるのが大切ですね。